親にできるのは外に向けて発信し続けること

── 2021年からはレンタルスペースで「Bakery KAMONE」を開き、雑貨やパンを定期的に販売するようになったそうですね。
輪島さん:はい。子育て支援のコミュニティにもなれば、と思って開催していたのですが、今年に入ってからお店のほうはお休みしています。ちょっと子どもたちの状況が変わってきたので。
── どんな変化があったのですか?
輪島さん:貫太は現在、特別支援学校の高等部に通っています。支援学校の高等部というのは一般の高校と違って、就労させるための学校という感じなんです。将来を考えたら当たり前の指導なのですが、貫太は就労に向けての授業内容になじめず、週の半分しか学校に通えていません。就労に向けての学校生活になじめないのであれば、就労してからはもっとつらくなって仕事を休むのではないか、と想像し始めました。今までは、子どもたちが健康で学校に通ってくれていたから、昼間私は仕事や作品に関することで動けていたけれど、休みが多く家にいるとなれば時間の使い方が変わってきますよね。あくまでも子どもファーストで過ごしたいと思っての変化です。
── 発達障がいや自閉症児の将来について悩んでいる親御さんは多いと思います。
輪島さん:子育てに正解はなく「こうしたらうまくいく」とは言えないのですが、わが家の場合は本当にたまたまタイミングと出会いが重なったと思っています。うちの子たちは特別だ、すごいと言われるけれど、そうではないんです。誰と出会ってどうつながるかが重要だと、最近強く思っています。さまざまなお子さんの話を聞きますけれど、みんなそれぞれ得意なもの、夢中になれるものは持っていて、親もそれを生かしたいと思っている。でも、その分野に詳しくないからわからない、というのが共通の悩みという気がします。だから、なるべく外に向かって発信して「この人が詳しいよ」「ここに情報があるよ」ということをつかんで、つながっていくことが親にできることではないでしょうか。
私たちは困っていること、悩んでいることを隠さず外に発信し続けてきました。最近では子どもたちのアートを中心に好きなことで何ができるかを考え、県内外問わずアーティストが活躍している場を見に行くなどしています。外に向けて発信して、みずからも探しに行くことで人と人とのつながりができたので、動くことは意味があると思っています。
── 今後に関してはどんな展望をお持ちですか?
輪島さん:もし貫太の就労が難しいのであれば、このまま自宅が工房となって活動することも視野に入れたほうがいいのかな、と漠然と考えています。わが家は福祉作業所ではないし、何か団体を立ち上げる予定もないけれど、一緒に工房で過ごしたい、という方がいて子どもたちとの相性がよければ来ていただくこともできるかもしれないですし。あるいはパン工房がひとつの受け皿になるかもしれないけれど、本格的にやろうとすることは簡単なことではないと思っています。自分たちのペースを保ちながらいろいろな可能性を探っていきたいです。
PROFILE 輪島満貴子さん
わじま・まきこ。1980年富山県生まれ。石川県金沢市で、それぞれ知的障がいを伴う自閉症の長男・貫太さん、長女・楓さんを育てている。イラストと切り絵が得意な子どもたちが日々つくり出す作品を何か形にできないかと考え、2016年から独学でものづくりを始める。SNSで作品や雑貨の写真を発信し続けるうち、企業から声がかかりコラボ商品に作品が採用されるように。現在、兄妹アーティスト「KANTA&KAEDE」の今後のサポート方法を模索中。輪島貫太&楓・母 著の著書として『みんなしあわせ。 兄妹アーティストKANTA&KAEDE』(東京新聞)がある。
取材・文/富田夏子 写真提供/輪島満貴子