これが自分の肌だから。完璧を求めるのを辞めた

── 掻かないようにする、ではなくてコントロールできる長さですね。

 

田村さん:前までは、掻かないことがアトピーを治すいちばんの近道だと思ってたんです。でも、我慢するとその瞬間は掻かなくても、どこかで爆発しちゃうんですよね。それで結局、定規とかペンで搔いちゃう。だからコントロールできるうちに少し掻いて、爆発しないようにしています。手の届きにくい場所がどうしてもかゆくて、変な体勢で掻いていたら、腱鞘炎になったこともあるんです。だから、無理はしないようにしました。

 

── 今は夜中に寝られていますか?

 

田村さん:小学生のころよりはマシですけど、やっぱり常にかゆくて睡眠不足です。それはずっと続いています。「ぐっすり眠れた―!」って言えたのが、人生でトータル3日間しかないんですよ。そのときはたぶん、いろんな条件が重なって奇跡的に寝られたんでしょうね。その3日間はなんかもう、ツッコミの言葉も間違えないし、思った言葉がバンバン出てくるみたいな。すべての回線が繋がった!という感覚がありました。それ以外はやっぱり常に寝不足だなと思います。ボクがツッコミの言葉を間違えるのは寝不足のせいですね(笑)。

 

── 芸人さんの場合、過酷な環境でのロケなど、肌が悪化しそうなシチュエーションも多そうですよね。

 

田村さん:一度、アメリカのアルバカーキという場所で、大富豪が山の中に隠したお金をトレジャーハンターとして探し出す、っていう企画があって。山の中で3日間、生活をしていたんですが、山の木が全部杉だったんですよ。ぼく、杉花粉のアレルギーもあって。もうくしゃみが止まらなくて、ずっとくしゃみとかゆさの中、ロケをしていました。3日間のロケで1年間分以上のアレルギー物質をもらってきたみたいで、帰国後もずっと体が真っ赤で、炎症を起こしていました。でも、仕事は仕事ですからね。そこはもう仕方ないものとして考えてます。

 

── 現在は、どのようにアトピーと向き合われていますか。

 

田村さん:自分の肌に合った保湿剤でこまめに保湿をすることですね。あとは、何事もそこそこに考えることです。ツルツルの肌になりたいと思っていたんです。完全に治したいって。でも、それは無理だなと。完璧を求めると、どこかで暴走してしまいます。ある程度掻くのはしょうがない。完璧を求めないようになりました。

 

田村裕
肌に完璧を求めない。田村裕さんが出した答え

── 爆発する前に、自分の気持ちをコントロールするのはいいのですね。

 

田村:あとは、自分はアトピーじゃないと思い込むことですね。アトピーだと思うと不思議と掻いてしまうんで。肌を触ってカサカサしていても「大丈夫、俺の肌はなんともない!」って自己暗示にかけています。「アトピーだから爪を切らないといけない」「アトピーだから激しく搔いてはいけない」と追い込むのではなくて、アトピーと適度に距離をとっていくことで痒みもかなり落ち着いてきました。「これが自分の肌だから」と自分を認めることも大事かなと思っています。

 

PROFILE 田村裕さん

たむら・ひろし。お笑いコンビ・麒麟のツッコミ担当。舞台やテレビで活躍する一方で、近年はバスケ芸人としても活動の場を広げる。2007年に発売された『ホームレス中学生』(ワニブックス)は、発行部数225万部を突破するベストセラーになる。

 

取材・文/大夏えい 写真提供/田村裕