「後悔したくない」AEDを知って命をつなぎ止める
── AEDが設置されていても、いざというときに正しく使えるかと問われると、自信がない人がほとんどではないかと思います。
蝶野さん:わかります。自分も講習で学ぶまでは、よく知りませんでしたから。救命救急といえば、昔は基本的に119番をして、意識の確認と気道確保をするしかありませんでしたが、いまは救急車が来るまでの間に心肺停止状態になったとき、AEDが命をつなぎとめるものになります。実際、目の前で人が倒れるとビックリしてしまうと思いますが、正しい知識を身につけておくことで、誰かの命を救うことができるかもしれない。「何もできなかった」と、後悔するのはつらいですからね。
── 「地域防災」の活動に取り組まれたのは、東日本大震災がきっかけだそうですね。
蝶野さん:東日本大震災のときに、AEDの救急救命でお手伝いに入ったのですが、現場で痛感したのは、自分の身は自分で守る「自助」の大切さでした。東日本大震災では、254名もの消防団員が犠牲になったと聞きました。避難所で点呼を取っていたのが地元の消防団員の方たちです。逃げ遅れた人がいないかを確認し、まだ避難していない人を救助に行ったりしているときに、津波に流された人も多かったようです。もしも、災害時に一人ひとりが適した行動をとることができていれば、犠牲は減らせたと思います。
大規模な災害が起こると、それを誘導する行政の「公助」にはどうしても限界がありますから、まずは自分の身は自分で守ることが大事になってきます。そうした「自助」ができてこそ、本当に助けが必要な人を救うことができるはずです。そうした思いから、救急救命の啓発活動ととともに、「消防応援団」として地域の防災にも力を注いできました。イベントなどを通じて、防災の意義や対策について、ひとりでも多くの人に伝えていければと思っています。
いま、社会の中心にいる元気な人たちは、子どもや高齢者、情報弱者や障がいのある方などを助けるべき存在だと思うんです。家族や会社、地域コミュニティのなかで、いざというときに自分が何をするべきか、何ができるのかを考え、周りと共有しておくことも大切です。こうした活動に関わるなかで、「本当の強さ」というのは、困っている人や弱い立場の人たちを救うためにあるのだなと実感するようになりました。