リングを降りた後の人生のほうが長い

── 強さを追い求めてきた蝶野さんの言葉だけに、重みを感じますね。2014年には、社会貢献を行う「ニューワールドアワーズスポーツ救命協会」を起ち上げられています。どういった思いがあるのでしょうか。

 

蝶野さん:AEDの普及を目指して啓発活動を行いながら、救命活動を推進すべく協会を設立しました。近年は防災の知識やルール、自助について、イベントや講演などで皆さんにお伝えしています。自分がこうした活動を行うことで、現役の選手たちに「リングを降りた後、こういう生き方もあるよ」というひとつのお手本、といったらおこがましいですが、モデルケースを示せればいいなという思いもあります。

 

アスリートって、現役で活躍できる期間は決して長くない。だいたい20代くらいがピークで、長くても30代後半ですよね。でも、引退した後のほうが、人生は長い。40代、50代の元気なうちにどう生きるのかを考えとき、それまで培ってきたキャリアや知名度、名声などの影響力を良い方向に活用していく方法もあるよ、と。自分が表に立って活動をすることで、いろんな方にAEDや防犯に関心をもってもらえれば嬉しいです。だから、自分は「客寄せパンダ」でいいと思っています。

 

ただ、最近は蝶野=プロレスラーだったことを知らない若い人もいて、人気テレビ特別番組『笑ってはいけない』シリーズの「ビンタの人」だと思われているみたいで。まあ、それでもいいんですけどね(笑)。

 

PROFILE 蝶野正洋さん

ちょうの・まさひろ。1963年生まれ、アメリカ合衆国シアトル出身。1984年に新日本プロレスに入門し、同年デビュー。以来、数々のタイトルを獲得し、「黒のカリスマ」として人気を博した。2010年に退団。現在は、メディア出演や講演活動など多方面で活躍し、「AED救急救命」や「地域防災」の啓発活動にも尽力。アリストトリスト代表取締役。一般社団法人ニューワールドアワーズスポーツ救命協会代表理事。

 

取材・文/西尾英子 写真提供/蝶野正洋