40年間、個人住宅を手がけてきた住宅設計者であり、「生活を積極的に楽しむこと」がモットーの一級建築士・田中ナオミさん(61)。自身が実践する「がんばらなくても片づく家事と収納」をまとめた書籍『60歳からの暮らしがラクになる住まいの作り方』が発売され、話題になりました。そんな田中さんは、長年住宅設計に携わってきて「片づく家の条件」に気づいたといいます。
家が散らかるのは「どう暮らしたいか」が見えていないから
片づかない家には、必ず散らかる原因があります。その多くは、家、人、ライフスタイルと収納がマッチしていないこと。それが住まいのなかで不具合として現れてきます。片づかないと思う人は、自分たちのライフスタイルに目を向けて、「暮らしの真ん中に何があるのか」を考えてみましょう。
- 買い物が大好き → クローゼットが常にパンパン
- 道具を使う趣味に夢中 → 道具で占拠されている部屋がある
- テレビが大好き → リビングが定位置
- 料理やお菓子作りが好き → 食材や道具が多い、キッチンに立つ時間が長い
- 在宅ワークがメイン → 仕事と暮らしの場が一緒 etc
たとえば昨今、「テレビを見ません、置いていません」という住み手が増えています。すると設計では部屋の向きやアンテナ、配線のことを考慮しなくてよくなります。ひと昔前だったら、お茶の間でテレビを見ながらみんなでくつろぐ、というのが家族団らんのイメージでしたが、今では団らんの仕方が変わっています。お風呂でネットフリックスやユーチューブを見ているときが個々に幸せだったり、家族の会話をLINEで済ませていたり…。リビングで何をするのか、そもそもリビングルームって何なのかを考えていくと家具の配置や収納の仕方、ゴミの処理などが変わっていきます。
ほかにも固定電話を持たない、仕事は自宅でオンラインなど、時代によって、また人、世代によって、ライフスタイルは異なります。私が住宅を創る際に住み手との面談で最初に行うのが、住人それぞれのライフスタイルを共有すること。以下の項目について住人それぞれに書き出してもらいます。
- 幸せだと思うとき
- 朝起きてから寝るまでの行動(平日・休日)
- 好きなもの、好きなこと
- 嫌いなもの、嫌いなこと
- 好きな家事、嫌いな家事
- 住宅で絶対に実現したいこと、やりたいこと
書くことで自分のことが客観視でき、自分自身を整理することができます。まずはそこが大事。夫婦の場合はそれぞれに書いてもらうと、考えていることが違ったりしてお互いのことを知る、いいきっかけにもなります。好きなことをもっと楽しめるように、嫌いなことを払拭するにはどうしたらいいのか、片づけながら住まいを整えましょう。
家族の意識が統一されていないと、結果散らかる
片づけたはずなのに、なぜか散らかる…。誰かと暮らしていれば、ものを使うのは自分だけではありません。収納場所やルールを決めていても、家族できちんと共有できていないと、結果、散らかります。ゴミの収集日や分別の仕方も同じで、きちんと共有することで家事を担う人がラクになります。
家族を巻き込んで任せることも大切です。自分がやったほうが早いことでも、まずはお願いして覚えてもらうのがいちばん。ただし、やり方が自分と違っていても目をつぶり、上手にやる気にさせてワンオペ生活を回避して。ひとりで抱え込むとイライラするので、ルールを共有して分担するとストレスも減ります。まずは「あれ、どこだっけ?」がなくなることを目指してみましょう。