40年間、個人住宅を手がけてきた住宅設計者であり、「生活を積極的に楽しむこと」がモットーの一級建築士・田中ナオミさん(61)。自身が実践する「がんばらなくても片づく家事と収納」をまとめた書籍『60歳からの暮らしがラクになる住まいの作り方』が発売され、話題になりました。そんな田中さんにとって、時短とは効率のためのものではなく「自分の時間を作り出すための工夫」だといいます。
「時短」という単語の独り歩きへの違和感
家事も仕事も食事も、何でもタイパ(タイムパフォーマンス)と言われる時代。ネットにはさまざまな時短術の情報があふれていますが、タイパ、タイパで生活が雑になれば当然気持ちもすれていき、生活自体が楽しめません。
私が思う「時短」とは、ただ効率を求めるのではなく、自分が大事にしたいこと、やりたいことに時間が使えるように、暮らしのなかのこまごまとしたことに費やしていた時間を見直すこと。決して手抜きではありません。
片づけることで家事が効率よくできて、結果時短になる。またきれいになることでものを使うこと、家事をすることが楽しくなる。これも時短です。
家事も無駄を省きながら手をかけるところはかけ、もうちょっとよくするためにどうしたらいいのか頭を回しましょう。無駄を省くといっても「早い+お手軽+安い」では心が貧しいですよね。「かしこく+効率よく」が理想です。たとえば私が好きな家事には、
- 洗濯をして効率よく干す、温かいうちに取り込む、片づける一連の作業
- 一週間のメニューを無駄なく組み立てる
- 収穫した野菜や食材をおいしく使いきる
- 季節の保存食を作る
- 夫と週末にする畑仕事
などがあります。どれも市販品や家電などで代用できますが、「作っている自分が好き」「おいしくて安全」「買うより安価」だからやる。「何のために限られた時間を使うのか」、一度考えてみると自分らしい時間の使い方が見えてきます。さらに、料理や食べることが好きだから季節で器を変えたり、季節ごとに新しい野菜に出会えて、去年と違うメニューにトライしたらびっくりするほど上手くいったり、歳を重ねるごとに自分の新しい面に出会えます。