知られざる切手デザイナーの仕事

── 毎年11月1日ころから年賀はがきの発売がスタートしますが、切手部分(料額印面)のデザインはどのくらい前から準備を始めるのですか。

 

丸山さん:およそ1年以上掛けています。すでに昨年から、来年の午年の年賀はがきの準備作業がスタートしていますよ。年賀はがきの切手部分(料額印面)のデザインは毎年2月に決まるのですが、デザイナーが考案したおよそ40種類のデザインから選んでいただくアンケートをとっています。世に出る前のデザインなので、守秘義務を交わした方を無作為に抽出させていただきアンケートを実施していますが、こちらの作業は外部会社に委託しています。そのアンケートから上位10点ほどに絞り、社内のデザイン会議によって最終的にデザインが決まります。

 

毎年、年賀はがき発売日の11月1日ころに発行枚数が前年より減っていることがニュースになりますが、減少傾向にあるといっても、年賀はがきの発行数は億単位です。印刷にかける時間も長く必要なので、準備期間は1年以上必要になります。

 

── 年賀はがきの切手部分(料額印面)のデザインはどのようなものが多く採用されるのでしょうか。

 

丸山さん:私は毎年、富士山をモチーフに作っています。やはり富士山というのが、毎年変わらずアンケートで人気の上位を占めていますね。

 

星山さん:その年の干支を使った題材も必ずあります。描きやすい干支と描きにくい干支があるのですが、昨年は辰年、今年は巳年と2年連続、ニョロニョロした鱗があるものが続きました。蛇は苦手という方は多いので結構デザイナーみんな苦労していましたね。あとは縁起物のデザインも定番化しています。

 

── 題材やアイデアはどうやって考えるのですか。

 

星山さん:私は動物園によく行って動物の写真などを撮っています。テレビや雑誌にもアンテナを張っていて「いつか使えるかもしれない」とヒントにさせてもらうことも多いです。また、デザインをするうえでは、絵そのものもそうですが、幅広いネタや知識も吸収してアイデアをおもしろく盛り込んでいくようにしています。何よりまず自分が楽しんで描くことを大事にするようにしています。

 

切手デザイナーの星山理佳さん撮影の鳥の写真
切手デザイナーの星山理佳さんは、日頃から動物や鳥、植物などの写真を撮り溜めているという

── 切手デザイナーの方は何人いらっしゃるのでしょうか。

 

丸山さん:現在は8人で、事務の方を入れるとおよそ20人のチームで仕事をしています。

 

── どんな方が切手デザイナーになれるのでしょうか。

 

丸山さん:美術系の大学又は専門学校を卒業されている方で、試験には実技試験や面接などもあります。募集は増員や欠員に応じて行うため、定期的な採用はありません。働きたいと思う気持ちと、募集があるタイミングでご縁があった方が切手デザイナーとして働いています。

 

── 切手のデザイン作業はどのように行うのでしょうか。

 

星山さん:アナログですと大体切手原寸の4~6倍、A4用紙ほどの紙に原画を描いています。パソコンならば大きさは自由に変えられますね。デザイナーによってさまざまな技法を使って描いています。パーツをバラバラに手書きで描いてから、最終的にパソコン上で組み合わせる者や、最初から最後までパソコンで描く者もいます。

 

── 切手のデザインをするうえで気をつけていることはありますか。

 

丸山さん:私はみんなが納得できるものというのがまず念頭にあります。郵便切手は公共性があるものですし、皆さんが平等に使うものなので、デザインも客観性があるものにしていかねばならないと思います。調整を図りながら権利関係などをクリアさせていくので、自分の場合は面白みがなくなっているかもしれないのですが、そこも取り柄ともいいますか。絵を描くほかに、写真で撮って表現する場合もあります。

 

趣味で集めている方に好まれる「日本の城シリーズ」や「鉄道シリーズ」のデザイン、2021年発行のピーターラビットや2024年発行のサンリオキャラクターズの切手のアートディレクションを担当していますが、絶対にミスは許されません。たとえば鉄道ですと、見た目は同じ車両でも、エンジンがひとつだと「キハ28」でエンジンがふたつだと「キハ58」。そういう知識や違いについてもわかったうえで描こうと思っています。

 

丸山智さんが切手のデザインを手がける「鉄道150年」(2022年9月21日発行)
ファンの間で人気が高い、丸山智さんが切手のデザインを手がける「鉄道150年」(2022年9月21日発行)

星山さん:実は絵を描いている時間はほんの一部で、権利関係の交渉や利用料の支払い手続きなども切手デザイナーの仕事です。出来上がったものの校閲・図案考証など、デザイン以外の仕事も多いです。

 

── 年賀状を出すの今年でやめるという「年賀状じまい」という言葉も登場し、年々年賀状を送る方が減ってきていることが話題にあがります。

 

丸山さん:私たちとしても危機感はあります。時代の流れとして、個人間での郵便のやり取りが減ってきているのも分かるのですが、温かいやり取りができるのが年賀状のよさだと思っています。たとえ縮小の流れではあっても、面白いことを盛り込みながら、細々と続けていくのが自分たちの仕事だと思っています。

 

星山さん:年賀状を書く作業は、忙しい時期に大変なことではあるのですが、配達の方が届けてくれるときのワクワク感は、元日ならではの文化だと思います。出すのはちょっとめんどくさいけれど、受け取るのはうれしいですよね。届いた年賀状を家族で仕分けて、手書きで書いてあるコメントを読むのも楽しいです。年賀状を通じて文字の持つ力というものが生きていると感じます。人とのつながりを感じられる習慣を残していきたいです。

 

取材・文/内橋明日香 写真提供/日本郵便株式会社