スケートの指導だけでは自己成長を感じにくい
── 村主さんは、五輪に2度出場のキャリアをお持ちです。スケートの世界で十分評価を受けており、着実にキャリアを積んでいますが、新たな世界を模索したのはなぜでしょうか?
村主さん:アメリカに移住してから、これまでの経験や実績はまったく通用しないと感じることが多くありました。私を「オリンピックに出場したスケーター」と知る人は誰もいませんし、もう過去のことです。そのなかで生活していると、人生まだ40、50年近くあるのに「このままではよくない」という思いを抱きました。
── 村主さんは、映画、ダンス含めたくさんの未経験分野に挑戦しているイメージです。どのような心境で、新しいキャリアに臨まれているのでしょうか?
村主さん:スケートはずっとやってきたことなので、スケートの指導は「自分が積み上げてきたもの、培ってきたもの」を伝える位置づけです。そのため、あまり自己成長を感じる機会が少ないです。そんなときにたまたま出会ったのが映画制作でしたが、必ず何か意味があって私の人生に現れたのだと信じています。
── 2019年から映画制作をはじめ、いくつか賞も受賞しています。映画とは長いつき合いになりそうですか?
村主さん:スケートと同じで、後は振り返らずにひたすら前だけを向いているので、自分たちがやってきたことをふり返る機会があまりないのですが、短編5本と長編2本が完成したのは、大きな進歩だった思います。映画といえばハリウッドを思い浮かべる方が多いと思います。私が住んでいるラスベガスにもソニーをはじめとする大手映画会社が移ってくる動きもありますし、映画産業には可能性を感じます。
今後の目標は、まだまだですが、いつか大きい映画祭に出品して、賞を獲得できればと思います。エミー賞(R)を獲った真田広之さんの『SHOGUN 将軍』を、私もじっくり拝見しましたが、本当に真田さんがこだわって制作されているのが伝わってくる、素晴らしい作品でした。真田さんは20年アメリカで頑張られての快挙、さらに、日本からはあのゴジラでさえも何十年もかかったので、先は長いです(笑)。
PROFILE 村主章枝さん
すぐり・ふみえ。幼少期をアラスカで過ごす。計五度に渡る全日本選手権優勝、冬季五輪2大会連続入賞、日本人初となるISUグランプリファイナル優勝、四大陸フィギュアスケート選手権三度の優勝。2014年に引退後、カナダで指導。2019年に映画制作会社を設立し、ラスベガスを拠点に映画プロデューサーとして活躍中。
取材・文/岡本聡子 写真提供/村主章枝、株式会社エアサイド