「目玉ゼリー」「指クッキー」はては「脳みそケーキ」まで、一度見たら忘れられないホラーなスイーツを悲鳴とともに全国に届けるナカニシア由ミさん。怪奇菓子を作り始めたきっかけは、意外なところにありました。(全2回中の1回)
娘の「キャラ弁作って」から生まれた怪奇食の世界
── 怪奇菓子職人のナカニシさん。もともとお菓子作りをしていたわけではないそうですが、料理関連のご経験は?
ナカニシさん:料理関連の仕事をしたことはなく、お菓子を作る人になるつもりもまったくありませんでした。どちらかというと、料理は苦手なタイプ。それが、娘が3歳のときに「キャラ弁を作って」と言われまして。家事も子育てもバタバタしているのに早起きしてキャラ弁なんて大変。「いったんあきらめてもらおう、うちのキャラ弁は娘の考えるキャラ弁とは違うぞ、と示せばあきらめてくれるはず」と考えたんです。
それで最初に作ったのが「エイリアン弁当」。いまから考えるとかわいいほうなんですが、娘が保育園から戻って、ワクワクしながらお弁当箱を開けて…。子どもながらに気をつかったみたいで「ありがとう」と言ってくれましたが、「月1回の保育園のお弁当日に持って行く?」と聞いたら、「やめとく」となりました。
── 娘さん、びっくりしたでしょうね(笑)。でも、「キャラ弁阻止」という当初の目標は達成できました。
ナカニシさん:そう、目標は達成したのですが、そのとき作ってみてけっこう楽しかったんですよ。練習したらもっとうまく作れるのに、と思って、頼まれてもいないのに、ひとりで夜な夜な毎日作って、翌日食べて、友達限定のSNSにあげたりしていました。そのうち上達して「ちょっと怖いお弁当」から「かなりホラーなお弁当」へと変化しました。でも、ホラーを追求すると、味は二の次になって、まずくなっていったんです。最終的に、見た目もすごく気持ち悪いし、味もおいしくない、というホラー弁当の限界を感じました。でも、何かを作りたい、と次に手を出したのがお菓子だったんです。
試作の指クッキー「もっとリアルを追求したい」
── たしかにお菓子なら見た目と味を両立できるかもしれません。お菓子も、やはり娘さんが試食したんでしょうか?
ナカニシさん:娘に食べてもらおうと、指クッキーをコップにぎっしりさして、机の上に置いといたんですけど…、驚くかなと見ていたら、娘は指クッキーだとまったく気づかず、ボリボリ食べてしまいました。「これ、指なんだけど」と言ったら、「ふーん、そうだったんだ」みたいな反応で、めちゃくちゃ悔しかったんですよ。今度はもっとリアルに作ってやろうと、爪部分をアーモンドからピーナッツに変えたり、骨のゴツゴツ感を出すためにスティックタイプのプレッツェルを入れたりしました。
── 悔しさをバネに、リアル感を追求したんですね。ほかの方の反応はいかがでしたか?
ナカニシさん:友だちの誕生日ケーキに、年の数だけ指クッキーをさして出したら大盛りあがりでした。多分、33本くらいかな。それをSNSに載せると「私にも作ってほしい」という声をいただいて、「目玉ゼリー」や「脳みそケーキ」を作りました。まさか商売にするとは思いませんでしたが、依頼が増えたので副業のような感じで、オーダーを受けることにしました。
── 当時、ナカニシさんは別の仕事をしていたのでしょうか。シングルマザーとして、娘さんをおひとりで育てていたんですよね。
ナカニシさん:はい。アメリカに語学留学して、アメリカではアニマルトリマーをし、帰国後は、ホテルのフロントや清掃の仕事を続けていました。お菓子はあくまで副業のつもりでした。