生まれながらにして、難病の肺高血圧症を抱える娘さんを育てる元スキー選手の森幸さん。その娘さんは泣き言を言わず、病気をうとましく思うことなく、すくすく成長していまや高校生。タフに育った理由に「スキー経験」が関係しているようです。(全3回中の3回)

過酷なスポーツを経験すると得られる能力

── 指定難病の肺高血圧症を抱える娘の未瑠加(みるか)さんを育てる中で、娘さんの精神的な強さにたびたび驚かれてきたそうですね。

 

森さん:はい。娘は病気のことで後ろ向きになることは、ほぼありません。私の子どものころと比べても、娘の方が真面目で責任感や正義感も強いと思います。そんな真っすぐな娘を見ているうちに、「うちの子は、なんでこんなに強いんだろう?」と思うようになりました。すると、まわりの人から「スキーをしてるからじゃない?」といわれて、すべてが腑に落ちたんです。両親だけじゃなくて、娘自身もスキーをしているから、精神的に強い子に育ったんだって。

 

── 「スキーをしているからでは?」と言われて納得されたのは、なぜですか?

 

森さん:じつは、娘は病気を抱えながらも幼少期からスキーをしていますが、周囲から指摘されたときに、スキーで「非認知能力」が鍛えられていたのだと思ったんです。

 

── その非認知能力とは、どんな能力をいうのですか?

 

森さん: 認知能力とはいわゆる学力やIQのことですが、非認知能力というのは、性格や考え方といった内面的なものを指します。近年の脳科学者や心理学者の研究では、非認知能力が高い場合は、向上心が強く、何事も最後までやり抜く性格を持っていたり、自分のことや自分が置かれた状況を客観的に理解したり、自身の言動をセルフコントロールしやすい傾向にあることなどもわかっているそうです。

 

この非認知能力は、自然の中で生活したり、スポーツをしたりすることで鍛えられるといわれています。特にウィンタースポーツは、雪山という過酷な状況で行われます。初心者の場合「人にぶつかりたくない」「転びたくない」といった不安を特に持ちやすいのですが、そうした不安に打ち勝ち、自分なりにうまく滑れる方法をスキーを通して考えるようになります。そのため、日常生活に戻ったときも、恐怖心を乗り越える方法をみずから考えるようになったり、新しいことにチャレンジしやすくなるのだと言われています。

 

また、自分なりに試行錯誤を重ねて挑戦し続けた先で、思い通りの滑りができたときは、何ともいえない達成感が味わえます。こういった成功体験は大きな自信になります。努力をすることの大切さを知ることで、自己肯定感の向上にもつながるというわけです。