今年、ダウン症初のフルマラソンに挑戦するタレントのあべけん太さん。実の兄でけん太さんの個人事務所社長でもある安部俊和さんとともにお話を伺いました。(全2回中の1回)

兄弟での完走を目指してギネスに申請

あべけん太さん(右)と兄の安部俊和さん(左)
あべけん太さん(右)と兄の安部俊和さん(左)

── ホノルルマラソンに向けてトレーニング中とうかがいました。

 

けん太さん:そうです!週1回トレーニングをしていて、3キロ、5キロ、10キロまで走れるようになりました。

 

俊和さん:けん太が走っているところは見たことがなくて。最初は「どうかな」と思ったんですが、週1回パーソナルトレーナーさんについて走る練習と毎日自宅での筋トレを始めてから、3か月ほどで10キロまで走れるようになりました。けん太は、小さい頃に水泳を習っていて運動神経は悪くないですし、何をするにも一つひとつ時間をかけて積み重ねていくことは得意なんです。

 

── どうしてフルマラソンに挑戦しようと思われたのですか。

 

俊和さん:ダウン症の人がフルマラソンを走ったケースは今までにほとんどないので。あべけん太が挑戦することで、日本中、世界中にポジティブなメッセージを発信できるんじゃないかと思いました。僕も一緒に走るんですけど、健常の兄とダウン症の弟でフルマラソンを完走した記録はないらしいので、ギネスに申請しています。ギネスは、先に宣言しておかないと認められないんですよ。

 

ホノルルに向けて走り込む日々
ホノルルに向けて走り込む日々

── 走るのは楽しいですか。

 

けん太さん:最高です!

 

俊和さん:でも「膝が痛い」と言ってるよね。

 

けん太さん:そうなんです!あと、こわいのが熱中症。35度の中で走ったら、「キューバタン!」で、「ピーポーピーポー」ですよ。水を飲んで、プロテインも飲んで、ぶっ倒れないようにします。

 

俊和さん:アクシデントもあると思うし、結果はどう出るかわからないですけど、覚悟を決めて挑戦すると、また新しい展開がうまれるんじゃないかなと思います。その先の景色が変わるというか。

55回目の挑戦で運転免許をギリギリで取得

── これまでも、どんなことに挑戦されてきたのですか。

 

俊和さん:20歳のとき、運転免許を取得しました。けん太が父と母に、「姉ちゃんも兄ちゃんも免許を持っているのに、どうして取らせてくれないんだ」と言ってきたので、「じゃあ挑戦してみようか」ということになったんです。当時はダウン症の人が免許を取った前例はなかったのですが、基準をクリアすれば大丈夫ということだったので。

 

けん太さん:実技はスイスイとできて楽しかったんですけど、本試験がね、難しかった!

 

俊和さん:本免学科試験に54回落ちて、55回目に受かるというミラクルを起こしました。日本の記録なんじゃないかな(笑)。教習所を卒業してから1年以内に本試験に通らないと、受験資格が失効してしまうんです。11か月と数週間というギリギリのタイミングで合格しました。

 

合格したときは、教習所の校内放送で「あべけん太くんが合格しました」と流してくれたそうなんです。けん太をかわいがってくださった先生方にも、すごく喜んでもらえました。食堂の人たちも応援してくれたんだよね。毎日のように来て、いつもラーメンを頼んでいたら、チャーシューをサービスしてくださって。

 

けん太さん:ほんとはチャーシューは2枚だったのに、3枚、4枚、と増えていって、最後は8枚も入っていて。胃がもたれました!

 

俊和さん:おいおい、みなさんの好意に何てことを!

 

運転免許を無事取得!家族で記念写真
運転免許を無事取得!家族で記念写真

── 途中で「もうやめたい」とは思わなかったんですか。

 

けん太さん:一瞬だけはやめようと思ったんですけど、免許を取って、かわいい彼女と運転したいなと思って。まだできてないんですけど。

 

俊和さん:家族としては、20回くらい落ちた頃から「次のことにチャレンジしてもいいんだぞ」というモードになりましたけど、本人はいたって前向きで、「いや、オレは取るよ!」と。ただ、あとで「つらくなかった?」と聞くと、「つらかった」と言うんですけどね。本人に「取りたい」という強い気持ちがあったから、達成できたんだと思います。

 

万が一事故などがあったときの対処が難しいので運転はしていませんが、「免許を取れた」ということが本人の自信になって、前向きな気持ちにつながっているんじゃないかと思います。