ひとり暮らしを始めて4年目、週単位で家計を管理
── ほかにも、挑戦されていることは。
俊和さん:ひとり暮しを始めて、4年目になります。提案したのは僕です。13年前に母が亡くなってから、けん太は父とふたりで仲よく暮らしていたんですけど、この先歳を取っていくと、ふたりで同居している状態が健全じゃなくなるときがくるんじゃないかと思ったんです。提案してみたら、「ひとり暮らし、いいね!」という反応だったので、物件探しを始めて。いざやってみたら、楽しそうにやっています。
けん太さん:「オレは自由だ!」って叫びました。
俊和さん:うるさい父ちゃんも兄ちゃんもいないもんな(笑)。けん太のリズムはゆっくりで、食事もテレビを見ながらのんびり食べたいんです。でも、家族といるとどうしても「みんな食べ終わってるぞ、早くしろ」と言われてしまうので、本来のリズムではなかったと思います。3時間くらい食べてるもんな。
けん太さん:いまは3時間は食べてない。でも、ゆっくり噛みたい。急ぐとのどに詰まるから。
俊和さん:それまでは周りに合わせようとがんばっていたから、ひとりになって「こんなに自由なんだ!」と思ったみたいですね。でも、自由には責任が伴うということは伝えています。火の元とか戸締りとか。
── 料理もされるんですか。
けん太さん:肉野菜炒めが得意です!
俊和さん:最近は、コンビニのすばらしさに気づいたみたいですけどね。
けん太さん:テイクアウトも得意です。肉とかコールスローサラダを買って、みそ汁をつければいいんじゃないかな。料理したいんだけどね、疲れがたまってるから作れないんだよ。
俊和さん:ひとり暮らしをするということは、お金の管理も自分でしないといけない。けん太の収入は、契約社員として勤めている会社からのお給料と障害基礎年金ですが、ひとり暮らしをする前はお金の管理はすべて父がやっていました。今は1週間ずつ生活費を封筒に入れて渡して、本人がやりくりしています。
── お仕事は毎日?
けん太さん:9時半から16時半まで、総務のさまざまな仕事をしています。
俊和さん:月末になると「お金がない」と言うんですけど、それなら「仕事をがんばって収入を上げよう」というモチベーションにつなげられればいいと思います。
ダウン症の人にとって、親亡き後に自立できるかどうかは最大のテーマですが、ダウン症を含む知的障がいの人は、日本中で3%しか自立できていないんです。けん太は、たまたまなんとかなっていますが、まだまだダウン症の人が稼げる世の中になっているとはいえません。
けん太さん:やれば、できる!
PROFILE あべけん太さん
あべ・けんた。タレントとして、NHK『バリパラ』、TBS『私の何がいけないの』などの番組で注目される。著書に『今日も一日、楽しかった』(朝日新聞出版)。
取材・文/林優子 画像提供/あべけん太、安部俊和