60代での演奏は「1曲でいっぱいいっぱいだけど…」
── 2021年発売のアルバム『SHOWDOWN』は全曲英語詞だとか。いろんな挑戦をされていますね。
寺田さん:20代の頃にメンバーで海外進出を目指していたから、その夢を叶えたくて、頑張ってみようって作った曲です。アルバムをレコーディングしたのはコロナ前。2019年にレコーディングをして、2020年にリリースする予定でした。少し遅れたけれど、世の中に送り出せてよかったです。
── 60代になっても、気力体力ともに充実されていますよね。うらやましいです!
寺田さん:いやいや。みんないっぱいいっぱいで演奏していますよ。テレビ出演だって、全身全霊でエネルギーを全部ぶち込むから、1曲やるだけで疲れちゃう(笑)。ライブになるともっと力を入れて演奏するので、それはもう大変です。でも、私たちってM気質があるバンドで(笑)、自分たちを痛めつけてやっと「やりきった感」を抱ける…みたいなところがあって。だから、各自で密かに努力していると思います。メンバーはみんな、努力とチャレンジを惜しまない天才たち。ある意味“奇跡のバンド”なんですよ。
── そして全員が60代というのが本当にスゴいです。挑戦しつづけるモチベーションはどのように保っていますか。
寺田さん:やっぱり気合ですね。若いときは、失敗を恐れず次に進めるじゃないですか。でもある一定の年齢を超えると、“失敗したらどうしよう”って考えるようになる。でも、行動を起こさなければ何も始まらないでしょ。大事なのは、失敗してもいいから自分を信じてやってみることかな。
── これまで更年期などで体調の変化もあったかと思いますが、どのように乗り越えましたか?
寺田さん:40代になる前、先輩方から「40代はいろいろ大変だぞ」と聞かされて、40歳前からジム通いを始めました。でも、実際に40代になってわかったのは「40代がこのキツさなら、50代はもっとキツいんだろうな」ってこと(笑)。だからつねに、もっと頑張らなきゃと自分を鼓舞してやってきました。
老いって誰にでも必ず訪れるし、どんどん成長速度を上回っていきますよね。でもやっぱり、年を取っても成長したいし、老いのペースをスローダウンさせたい。そのためには結局、楽しみが多いほうがいいのかなって。歳をとると不安や恐怖を覚えるものだけれど、それは誰しもが経験することだと割りきって、挑戦しつづけられるといいですよね。
── つねに前向きな姿勢でいられる秘訣はありますか?
寺田さん:自分の場合は、音楽活動で人とふれ合うことかな。そのなかで“こんなこともやりたい”って、前向きなアイデアがいっぱい出てくるんです。音楽をやっていないときは、廃人みたいになっているけれど…(笑)。もしやってみたいものが見つからないなら、人とかかわったり、一緒に行動してみるのもいいと思います。ふとしたことから興味を持てる対象が見つかるかもしれないからね。
── お話をお聞きしていたら、なんだか元気が出てきました!
寺田さん:それはよかったです(笑)。とにかく自分に限界をつくらないこと。“これができるのはいつまでだな”なんて想像するのは寂しいじゃないですか。そういえばこの前、若手のバンドの子たちと、その子たちが今の私たちと同じ年齢になったときに対バンしようって盛り上がったんです。20年後なので、SHOW-YAのメンバーは80代(笑)。でも、それでバンドをやるっておもしろそうだなって、ワクワクしました。
将来にこういうことができたらおもしろいなって考えるのも楽しいですよね。実現するかどうかは置いておいて。そういうことを考えていれば、年を取ることも楽しいんじゃないかなって思うんです。
PROFILE 寺田恵子さん
てらだ・けいこ。1963年、千葉県出身。ミュージシャン、シンガーソングライター。高校在学中から音楽活動を開始。1985年、SHOW-YAのボーカリストとして『素敵にダンシング』でデビュー。1991年にSHOW-YAを脱退し、1992年に『PARADISE WIND』でソロデビュー。また再び2005年SHOW-YA再結成。現在もライブ活動を中心に活躍中。最新アルバムは2021年リリースの『SHOWDOWN』。
取材・文/池守りぜね 写真提供/寺田恵子