予約が取れない店で有名な日本料理店「賛否両論」の店主で料理人の笠原将弘さんに、店のスタッフや3人の子どもに伝えているという「働き方」について語ってもらいました。(全2回中の2回)
子どもたちは全員「店でバイトを」
── 現在は、長女と次女が社会人、長男が大学生だそうですね。進路を決める際に親子で話すことはありましたか。
笠原さん:「将来どうする?」って話は子どもとしょっちゅうしていたけど、最終的には全員自分で決めたね。子どもながらに小さい頃からの夢がそれぞれあって、それを追いかけているように思いますね。
親心で「こういうところどう?」とか、「ここ入ったらいいぞ」という話はしたけど、結果的にみんな自分の好きな道に進んで。長女は化粧品関係の会社で、次女は将来カフェを開きたいそうで、おしゃれなカフェを運営しているところ。長男は家を出て大学生。ヨーロッパのサッカーが好きだから、仕事で行けたらいいなって話をしていて、国際経営などを学べる大学に通ってますよ。
── お子さんたちは学生時代に、笠原さんの店でバイトをするそうですね。
笠原さん:大学って休みが多くて、「また休みか」ってなるよね。家に帰ってきてだらだらしてるからさ、「だったらバイトしろよ」と言って店でバイトさせてるんだよね。あまり年が変わらない同世代の子たちと働けるし、おこづかい稼ぎにもなる。長女も次女も大学生のときにうちの店でバイトをしていて。
── 先日、長男が笠原さんのYouTubeチャンネルで、「将来は店を継ぐ」という話をされましたが、お気持ちはいかがでしたか。
笠原さん:「うん、そうか!」と思いましたね。本気でやりたいというならば、それは嬉しいですよ。でもこういうことはもっとちゃんとしたときに、2人っきりのとこで言えよと怒りましたけど。「賛否両論」はひとりで始めた店で、代々続いているわけじゃないから、自分の代で終わっていいと思っていたんだけどね。でもね、本気でやるなら、めちゃくちゃ厳しいところに修行に行かせますよ。
店でバイトをすると、俺とも一緒に仕事をするから、家にいる時とは違った面を見るし、周りからいろいろ言われて継ぐ気になったのかもしれないね。
── 笠原さんも修行に出ていますよね。
笠原さん:俺も親父が店をやっていて、小さい頃からそれを見て育ったから、親父と同じ料理の道に行くって、「ここで働けばいいのかな」くらいの軽い気持ちでいた。でも親父から、「家だと甘えが出るから絶対に外に行ってこい」と言われて修行に出たんですよ。
外で、知らない世界で揉まれると自分の店の見方も変わるので、本当に親父の言う通り、行ってよかったなと。外に出て働いてみると、お金を稼ぐって大変だなとか、人間関係って大変だなとかいろんなことを学ぶじゃないですか。親父は料理人としてもすごかったということは外に出て改めてわかった。「親父、魚おろすのうまかったな」とか、後になって思いましたね。それに、料理だけじゃなく、人間関係を学ぶことも必要。でもこれはどの業界でも一緒だよね。
おかげさまでこの業界には知り合いがいくらでもいるので、息子が外での修行に耐えて戻ってきたら、最後の難関として俺が誰よりも一番厳しくしようかと思っていますよ(笑)。
── やはり料理の道は、厳しい世界ですか。
笠原さん:うちの店も週に必ず2回休みを取るとか、労働時間に関しては、俺の修行時代に比べたらだいぶ楽だとは思う。でも、いまだに「修行」っていう言葉が残る世界だから、世の中的には、「ブラックだ」と言われるかもしれないよね。でも、言い訳はできなくて結局は自分だから。上手くなりたいんだったら本人がやらなきゃいけないと思う。