貧乏青年と結婚を決めるまで

安藤和津
CNNにてキャスター時代の和津さん

── 頼りない弟としっかり者の姉のような関係性だったのですね。そこから恋愛に発展したきっかけは?

 

安藤さん:当時、正直に言うと年下で借金だらけでいつもお腹を空かせている彼のことは、恋愛や結婚の対象としてはまったく見ていなかったんです。

 

私はずっとイギリス紳士のようなタイプの男性が理想でした。スーツを品良く着こなす大人の男性。そこは政治家で小説家でもあった父(犬養健:法務大臣。元首相・犬養毅の三男)の影響かもしれませんね。

 

奥田のほうは私に恋愛感情があるようなことをよく言っていましたが、「ハイハイ、バカなこと言わないで。シッシッ」と適当にあしらっていました(笑)。

深夜に下着姿の女性が…

── 好きという気持ちに気が付いてからはお母様の賛成も得てトントン拍子で話が進み、出会って8か月後の1979年にはスピード結婚。その直後から奥田瑛二さんは俳優として一躍ブレイクを果たし、80年代には「不倫してみたい俳優No.1」と称されるほどの人気者になります。一方で、結婚生活では奥田さんの女性関係のスキャンダルや借金に悩まされてきたことが明かされています。

 

安藤さん:そうですね。知人に映画の資金を横領されて倒産寸前になったり、奥田の女性関係に翻弄されたりと、それはもう本当にいろいろありました。

 

あるとき、家族4人で寝ていたら黒い下着姿の外人女性がドアのところに立っていたことがありました。その彼女が英語で何か話しているんだけど、その日の私は疲れ果てていてとにかく眠かったので、「ああ、奥田の恋人が乗り込んできたのかな。今度は外国人なの?」って思っただけで、こういう時、私はどうしたらいいのって考えてるうちに気が付いたら寝落ちをしちゃったんです。

 

しばらくして目覚めてリビングへ行ったら、彼女は隣のマンションの住人で近所、暴力をふるう彼氏から必死で逃げてきた人だったの。手当たり次第にマンションの部屋のドアを開けていたら、うちだけなぜか鍵がかかってなかったので助けを求めに我が家に入ってきた…というのが事の顛末でした。

 

今なら笑い話としてこんなふうに話せますけど、振り返ってみると私は自分で自分の心をプロテクトしていたんでしょうね。あまりにもそういった出来事に悩まされ続けたので、当時の私は「もうそんなことはどうでもいい」「ドンと構えていなかったら傷つく」と無意識に心を麻痺させていたのだと思います。

 

PROFILE 安藤和津さん

1948年、東京都出身。学習院初等科から高等科、上智大学を経て、イギリスへ2年間留学。CNNのメインキャスターを務める。1979年、俳優・映画監督の奥田瑛二さんと結婚。長女は映画監督の安藤桃子、次女は俳優の安藤サクラ。エッセイスト、コメンテーターなど幅広い分野で活躍中。

 

取材・文/阿部花恵 写真提供/安藤和津