「自分の若いころのスローな話し方についツッコミを入れたくなっちゃう」。50代になって積極的にバラエティー番組への出演をはたす高橋ひとみさん。「人間はそんなに変わらない」なんて違うなあ、と気づかされるインタビューになりました。(全5回中の3回)

芸能生活45年「注目されなくてもつねにいる」存在でいたい

── 17歳で女優デビューし、今年で芸能生活45年目。長年、第一線で活躍されている印象がありますが、壁にぶつかって悩まれた時期があったりするのでしょうか?

 

高橋さん: 壁には、つねにぶつかっています。40代までは、「難しいんだよね、ひとみちゃんくらいの年ごろの役は」と言われつづけ、「じゃあ、いくつになったら難しくなくなるんですか?」と思っていました。

 

ずっと忙しかったわけではないし、「お仕事が途切れたらどうしよう。このまま役者としてやっていけるのだろうか」と、不安に感じた時期もありました。ただ、幸いなことに実家暮らしだったので、自分ひとり食べていくくらいなら、なんとかなるだろうと思っていました。

 

渡辺いっけいさんには、「地方出身だと、まず東京に出ること自体が大変なんだからね。そんなんだから、ひとみちゃんはガッツがないんだよ」なんて言われて、「なるほど、その通りだな」と(笑)。

 

── たしかに、お話を伺っていても、マイペースでおっとりした印象があります。お仕事を頑張る原動力は、なんでしょうか?

 

高橋さん: すごく大きなものというよりも、その時々の幸せのために頑張ってきた気がします。2022年3月に飼い犬のゴールデンレトリーバーのももえが14歳で旅立ったのですが、それまでは、「ももえを幸せにしたい」という気持ちが一番大きかったですね。

 

ももえがいなくなってからは働く目標をちょっと見失い気味になっているかも。落ち着いたら、また犬を飼いたいですね。

 

座右の銘は、「漂(たゆた)えど沈まず」。“波の上下はあっても舟が沈まなければ大丈夫”という意味ですが、私自身もそうありたいなと思っているんです。大きく注目されなくても、「あの人はつねにいるよね」という立ち位置で、いつまでも消えずにいたい。

 

もちろんそのためには、自発的に動いて頑張り続けることが大事だと思っています。現在、公演中の舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』では、マクゴナガル校長役を演じていますが、すごくやりたかった役でオーディションに挑みました。いまも毎日ワクワクしながら演じています。

 

現在は『ハリー・ポッター』の舞台でマクゴナガル校長役で活躍中

じつは、ももえが亡くなったのは、この舞台の稽古が始まる直前だったんです。まるで私に心配をかけまいと時期を選んで旅立ったかのようでした。「これから稽古で忙しくなって大変だろうから、私は先に旅立つね。しっかり舞台に集中して頑張ってね」と、思いを託されたような気がして。

 

だから、ももえのためにも、この舞台に全力で打ち込みたいと思ってやっています。いまも舞台を通じてつながっている感じがしますね。

足かけ2年の舞台に出演中「いつも新しい発見がある」

── 公演中の舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』は、2022年7月にスタートし、2年目のロングラン上演中ですね。

 

高橋さん: これほどのロングランは私を含め、共演者のみんなも初めてでしょう。ひとつの作品を何百回もやる機会はないですから、すごい経験ですよね。

 

回数を重ねるごとに「ああ、こういうこともできるな」と試せて、新しい発見があるんです。いろんな演技に挑戦できるのは、ロングランならではの醍醐味ですね。

 

── 例えば、どんなことでしょう?

 

高橋さん: ロングランだと、ダブルキャストで相手役も変わります。それに合わせて、こちらの演技も変わっていくので、舞台の雰囲気がまったく違うものになったりするんです。同じ演出で同じ役なのに、なぜこんなにハリーが違うの?というくらい変わっていて、それぞれの演技を楽しめるのも魅力のひとつです。

バラエティー番組に出ようと思った矢先の『アウトデラックス』

── 50代からは、バラエティーの世界に飛び込み、お酒の失敗談をぶっちゃけるなど、飾らない人柄で引っ張りだこの存在に。それまで「しゃべれないからバラエティーには出ない」と決めていたというのが意外なくらいです。どんな心境の変化があったのでしょう?

 

高橋さん: 以前は「自分の言葉で話すなんてムリ!」と、かたくなに出演を断ってきたのですが、50代に突入し「新しいことに挑戦してみたい」気持ちがわいてきたんです。

 

いまさらイメージが崩れるなんて心配する年代でもない。それなら逆に、自分をもっとさらけ出して、「こんな一面もあったんだ」と知ってもらえればと思ったんですね。

 

50歳でホリプログループに入ったのを機に、これからは、「こういう仕事はイヤ」「できません」とは言わないよう、とにかくすべてやってみようと心に決め、苦手だったバラエティーにも挑戦することにしたんです。

 

ちょうどそのタイミングで『アウトデラックス』の出演依頼をいただいたので、思いきって出てみたら、反響が多くてビックリしました。

 

── とはいえ、初めて出演するバラエティー番組にしては、かなりディープな気が(笑)。

 

高橋さん: 最初は、「なぜ私はここにいるのだろう…」と、カルチャーショックのような感覚に陥りました(笑)。「こんな濃いメンバーのなかで、やっていけるのかな」と、不安に思っていたのですが、マツコさん、矢部さんや山ちゃんはとにかく優しいし、皆さんもおもしろくて、温かい。だんだん心地よくなってきたんですよね。

 

私自身は酔っぱらって、いろいろとやらかしていますが、皆さんさらに上を行くアウトな人たちばかりだから、「私なんてまだまだひよっこだわ、大丈夫!」と、妙な安心感を覚えるんです(笑)。

カッコつける年じゃない!「バラエティーはほとんど素です」

── さすがですね(笑)。もともと適応能力が高いタイプだったのでしょうか? 

 

高橋さん: 最初はそうじゃなかったと思うんです。でも、バラエティーに出させていただくようになって、これまでお会いしなかったような方と話したり、いろんな経験をさせていただくうちに、どんどん楽しくなってきて。バラエティーへの出演が、私の心の扉をこじ開け、殻を破ってくれた感じがします。

 

── それまで女優さんとしてクールなイメージが強かったので、破天荒なエピソードを包み隠さず話される姿に、「こんなにおもしろい人だったとは」と驚く声が多かったです。

 

高橋さん: 昔は、やっぱり役柄のイメージを気にしていたところがありましたね。とくに、『ふぞろいの林檎たち』のアンニュイな感じの役柄でデビューしたので、そのイメージを崩してはいけないと。ちょっと物憂げで、けだるそうな感じを演じていたように思います。

 

この間、『徹子の部屋』に5回目の出演をさせていただいたのですが、初出演での映像が出たときに、いまと話し方がまったく違うんですよ!「そうですねえ…それはあ…」なんて、話すスピードが遅い遅い!思わず小突きたくなりました(笑)。

 

── 昔は、女優という存在がベールに包まれていた時代でしたね。

 

高橋さん: イメージを崩してはいけないと思っていた部分はありましたね。でも、いまは、テレビでもほとんど「素」です。

 

お酒の失敗談をあそこまでぶっちゃけているので、いくらカッコつけたところで、「どうせ所詮『みゆき』なんでしょ?」(「お酒を飲みすぎると別人格の『みゆき』が目覚め、やりたい放題に振る舞う」とテレビで告白)と思われているんじゃないかと(笑)。

 

50代は、「残りの人生のカウントダウンが始まる」といったら大げさかもしれませんが、新しいことにチャレンジした時期でした。60歳を超えたいまは、元気で素敵な先輩方の姿が頑張るモチベーションになっています。

 

PROFILE 高橋ひとみさん

1961年東京都生まれ。1979年、寺山修司演出の舞台『バルトークの青ひげ公の城』で女優デビュー。83年に『ふぞろいの林檎たち』でドラマに初出演。現在まで数多くのドラマや映画、舞台に出演し、近年はバラエティ番組や情報番組などでも活躍している。2015年より、南アフリカ観光親善大使、19年より大田区観光PR特使を務める。現在、舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』に出演中。

 

取材・文/西尾英子 画像提供/ホリプロ