お金に対する不安はなくなり、工夫を楽しむ快適な日々

「驚いたことに、旬の野菜や、たんぱく質豊富で安い食材を使った食事を続けるうちに、体調がすっかりよくなりました。日々の生活では食材以外のものはほとんど買わないのですが、ときにはプチ贅沢と称して、普段よりちょっぴり美味しいものを食べたり、趣味嗜好のために使うなど、限られている分メリハリのあるお金の使い方ができるようにもなりました」

 

節約生活を始めた最初のころに作った調味料棚。木彫りの部分は使わなくなったついたてから切り出してはめ込んだ

そんなふうに過ごしていくうちに、無理や我慢をしなくても、節約しながら楽しい生活をすることができる。節約すること自体を楽しめばいいということに気づいたという紫苑さん。

 

「するとそれからはお金への不安もなくなり、行く先のことを考えて憂えることもなくなって、“今の自分”に集中できるようになりました。節約生活が私にもたらしてくれた恩恵は、とても大きいものでした。そしてそれは今でも日々着実に増えるばかりです」

 

あれこれ手を加えて変えることができる、一軒家という自由度の高さを活用し、この家をもっと住みやすく、自分仕様に変えていこう。そんな理由から、DIYも挑戦するようになったといいます。

 

パソコン台として使っていたものにすのこの目隠しを取りつけ、収納&調理台にアレンジ

シニアの「食費1万円生活」のコツは栄養豊富な旬の野菜とたんぱく質

日々、紫苑さんのブログに更新され続ける“節約のメリット”は、それ自体が心地よい暮らしを証明しています。その筆頭が食生活。

 

料理の作り置きはしないのがこだわり。その日の体調によって食べたいものは変わるし、美味しいに便利は優先しないから。簡単に下ごしらえさえしておけば、調理も時短に

「年金5万円という1か月に使える金額のうち、まずは食費を月1万円と決め、“安い・美味しい・簡単・体にいい”をテーマに、月1万円でできるレシピを考えるようにしました。シニアにとって重要なのは、筋肉をつくるのに大切なたんぱく質。そこで鶏むね肉やイワシ、豆腐といった安くてたんぱく質豊富な食材に、旬の野菜をプラスして、さまざまな味付けで調理するように工夫しました。

 

すると2か月を過ぎたあたりから、筋トレ代わりに始めた散歩の効果もあってか、体がしっかりしてきたな、という実感があったのです。もともと胃腸が弱く、太りたい一心で頑張って食べても逆にお腹を壊してしまったりと、なかなか体重が増えないことが悩みでした。そんな私が、筋肉がついてきたせいか体重が増え、顔がふっくらとして肌にハリも出てきたように感じます」

 

限られた食費だからこそ、ちょっとした工夫が大事。上:鶏肉やイワシは塩麹に漬けておくと美味しくなって、長持ちする。下:キノコ類はベランダで天日干しに。このひと手間で栄養価も滋味もアップ

さらに食費を抑えるためとの理由もあり、スイーツ類をあまり食べないようにしたことで、長年の悩みだった持病(過敏性腸症候群)もすっかり完治。70歳を超えても食生活を変えることで体は変えられるのだ、ということを身を持って知った紫苑さん。嬉しい驚きを経験しました。

 

すべての時間を自分の好きなことに没頭できるひとり暮らし。紫苑さんの毎日は穏やかな幸せに満ちています。

 

PROFILE 紫苑さん

ブロガー。コロナ禍の中で年金の少なさに直面、対策を考える。2020年3月から、月5万円の年金生活を実行し始め、お金を使わずに楽しむ生活の工夫をブログ「ひとり紫苑・プチプラ快適な日々を工夫」にアップして話題に。著書に『73歳、月5万円でますます快適!「ちょうどいい」を自分で創るごきげんプチプラ生活』(廣済堂出版)ほか。『人生後半のひとり暮らしを穏やかに楽しむ』(主婦と生活社)では、食生活のほか、大好きなおしゃれや、自宅のDIYに関するポジティブな節約生活についても語っている。

 

取材/石原輝美(smile editors) 撮影/山平敦史