仕事がひと段落つき、子育ても終わる頃、人生の後半をどう過ごすべきか、考え始める人は多いのでは。そんなとき、年齢を重ねた先輩たちの生き方が参考になるかもしれません。60代から90代までの、ひとり暮らしを楽しんでいる6人のライフスタイルを収録した『人生後半のひとり暮らしを穏やかに楽しむ』が話題です。本書に登場している紫苑さん(73歳・ブロガー)にお話をうかがいました。

シングルマザーとして奮闘、65歳からの年金受給額はたった月5万円

ブロガーの紫苑さん
2020年3月から、月5万円の年金生活を実行しはじめ、お金を使わずに楽しむ生活の工夫をブログ「ひとり紫苑・プチプラ快適な日々を工夫」にアップして話題に。現在、著書を3冊出版

紫苑さんが暮らすのは、東京23区内の住宅地にある一軒家。散歩の途中でたまたま見つけた築40年の物件を、65歳のときに購入しました。

 

地方新聞社勤務を経て、シングルマザーとしてフリーランスで仕事をしてきた紫苑さん。子どもたちが独立し、ひとり暮らしになって、65歳から受給し始めた国民年金は月5万円。年金が義務ではない時期には加入していなかったための金額です。金額の少なさに加え、毎月支払う家賃で貯金がどんどん減っていき、将来に対する不安に押し潰されそうになっていた頃、この一軒家が偶然、目の前に現れました。 

 

「地方から上京して以来、ずっと賃貸暮らしを続けてきました。だから家を買うときはとても迷いました。興味は引かれたものの、これまでにない大きな買い物。なかなか踏ん切りがつきません。それが当時、散歩がてら見にくるたびに、どんどん価格が下がっていて。結局、半年以上迷ったあげく、貯金の範囲内で買える金額になったところで、思いきって契約するに至りました。65歳にして人生で初めて家を買ったわけですが、当時はその喜びよりも、これでとりあえず、毎月の家賃からは解放されるという安堵のほうが大きかったのを覚えています」

 

ブロガーの紫苑さん
「外に出て大きく深呼吸するだけでも気持ちがいいんです」

以前は体力維持のためにジム通いもしていたけれど、今は散歩が筋トレ代わり。集中して作業したあとに、気分転換も兼ねて近所の公園を歩いたり、土手へ上がる少し長めの階段を何回か上り下りしたりするのが日課です。

あきらめの気持ちで始めた節約生活 視点を変えたことでネガティブからポジティブに

中古住宅を購入したことで貯金をほぼ使い果たし、年齢的なこともあってか、それまで細々と続いていた仕事もグッと減っていきました。そのため月5万円の年金で衣食と光熱費など、すべてをまかなわざるを得ない状況になっています。

 

「初めは『この少ない金額で、これからひとりで生活しなければいけないのか。パートに出るにしても、果たして雇ってもらえるのかどうか』と、焦りと不安でいっぱいで、眠れない夜が続きました。ところがそんなあるとき、『いや、考えてみたら、何もしなくても5万円はもらえるのだ。それはむしろありがたいことではないか』とまったく逆の考えが、ふと浮かんだのです。すると心が少し軽くなり、希望のようなものがほんのり見えてきました。そしてそこからは、お金を使わずにどれだけ豊かな生活を送れるか、ということに目が向いていきました」 

 

少しずつ節約生活を実践し、経験値を上げていくうちに、「節約は、我慢やつらさを強いられるものではなく、心地よく生活するための知的活動だ」と、紫苑さんの考えが大きく変わっていったのです。