元プロサッカー選手の小野伸二さんの妻で、モデルで実業家の小野千恵子さんにインタビュー。2人の女の子を出産し、育児に奮闘していた当時のエピソードを伺いました。

出産当日に退院!オランダでの初めての出産と子育て

── ふたりの娘さんを育てていらっしゃいます。最初のお子さんはオランダで出産されたそうですね。そのときのことを教えてください。

 

小野さん:25歳のとき、オランダで長女を出産しました。いま思うと日本で出産してもよかったのに、なぜか当時、里帰り出産は選択肢になかったんです。私の母に1か月ほど来てもらって、オランダで出産しました。

 

── 海外でのご出産に不安はありませんでしたか。

 

小野さん:若かったせいか、勢いでなんでもできると思っていたんですよね。妊娠中の検診には、念のためオランダ語ができるお友達や、夫のチームの通訳をしている方についてきてもらいましたけれど、産むときはひとりでした。片言の英語と「なんとかなるさ」精神で、本当になんとかなりました(笑)。

 

オランダでは「出産は病気じゃない」という意識が強くて、産後に入院してケアをするという習慣がないんですよね。いまはどうなのかわからないのですが、長女が産まれた19年前は、出産した当日に母子ともに退院するのが普通でした。

 

小野千恵子
第一子出産時には半日だけ入院後、すぐに退院に

入院するときは「陣痛は何分おきか」を確認されて、出産ギリギリにならないと病院に入れてもらえないんです。オランダで出産した日本人の知り合いの方に、「陣痛が来たら、陣痛の間隔時間は短めに伝えたほうがいいよ。病院の言う通りにしていたら、タクシーのなかで産まれちゃうから!」とアドバイスをもらっていたので、私もちょっと短めに伝えました。

 

出産したあと、日本の病院ならそのまましばらく分娩台で寝かせておいてくれますよね。向こうではすぐに「さあ、立って」と言われて、歩いてシャワーを浴びに行かされるんです。私は貧血で倒れそうになったので車いすに乗せてもらいましたけど、それでもシャワーは浴びました(笑)。

 

── えーっ!日本での出産とは全然違いますね。

 

小野さん:オランダの人は、出産して1時間後には退院するんですよ。夫がその日試合に出場していて、夕方まで迎えに来られなかったので、私は病院にお願いして産後、入院させてもらいましたが、それでもたったの半日だけ。向こうの人はみなさん歩いて帰るんですけど、私はさすがに歩けなくて、車いすで家に帰りました。ヨーロッパの女性はすごいですよね!

 

小野伸二
自宅で沐浴のしかたを学ぶ

退院したら、その日から自分たちで産まれたばかりの赤ちゃんのお世話をしないといけなくて、「どうしたらいいの!」ということの連続でした。

 

入院させてもらえない代わりに、最初の5日間は看護師さんが訪問してくれるんです。沐浴のしかたとか、赤ちゃんのお世話のしかたをいろいろ教えてくださいました。

 

産後2週間くらいまでは母がいてくれましたが、母が日本に帰ってしまってからは、もう行き当たりばったりで、なんとかするしかありませんでした。

 

小野千恵子と母
日本から来た母と一緒に

SNSがない時代だったからこそ育児に没頭できた

── 海外での育児は大変ではなかったですか。

 

小野さん:苦痛を感じることはなかったですね。オランダは自然豊かで空気もおいしくて、子育てをするにはいい環境でした。病院へ行けば同じくらいの赤ちゃんを育てている方もいらっしゃいましたし。

 

夫がいないときは、友達が助けてくれました。子どもを連れてどこかへ出かけないといけないときは、いつも友達が付き添ってくれたので心強かったです。

 

日本にいる友達とは、オランダに来た時点で連絡がとれなくなってしまったので、みんなが何をしているかわかりませんでした。

 

20年前は、いまみたいにSNSでつながれる時代ではなかったですし、LINEもなかったし、気軽に電話もかけられませんでした。

 

小野千恵子とお子さん
「オランダでの育児は楽しかった!」と小野さん

── 育児で孤独を感じることはありませんでしたか。

 

小野さん:それはなかったですね。誰ともほとんど連絡できないから、海外で暮らすことになった時点で、すでに孤独だったんです。そのおかげで、育児中も孤独を感じずにすんだのかもしれません。

 

いま思うと、日本にいる同世代の友達が何をやっているかわからないから、焦ることもなく、海外の生活にも子育てにも没頭できたのだと思います。いまだったら、情報がありすぎて翻弄されていたかもしれませんよね。

 

その代わり、久しぶりに日本に帰ってきたときはまさに浦島太郎状態でした(笑)。

 

── 日本に戻られたのは、お子さんがおいくつのときですか。

 

小野さん:夫が浦和のチームに移籍をして、日本に帰ってきたのは長女が2歳のときです。帰国してすぐに、次女が産まれました。

 

次女を出産した日本の病院では、何日も入院させてくれて、夜間は赤ちゃんを預かってくれて私は寝かせてもらえたんです。オランダの病院とはあまりにも待遇が違って、「えっ!こんなぜいたくをしていいんですか?」と思いました(笑)。

 

PROFILE 小野千恵子さん

ファッションモデル、実業家。大学時代に『JJ』モデルとして活躍し、22歳で元プロサッカー選手の小野伸二さんと学生結婚後、オランダへ渡る。17年間の主婦生活を経て、40歳で『STORY』モデルとして復帰。犬と家族のブランド「LAUW(ラウー)」ディレクター。2人の娘さんは大学生と高校生。

取材・文/林優子 画像提供/小野千恵子