日本を代表する国際派俳優としてその名を知られる工藤夕貴さん。現在、静岡県富士宮市の広大な土地で農業を営みながらスローライフを満喫されているそう。農業に傾倒することになったきっかけを伺いました。

健康に自信がなかった自分を変えた友人のひと言

── 工藤さんは俳優業のかたわら農業をなさっているそうですね。

 

工藤さん:静岡の富士宮市に土地を買って農業を始めて20年以上が経ちます。

 

── 富士宮を選んだ理由はあるのですか?

 

工藤さん:富士山が大きく見えて、昔よく泳ぎに行っていた湖があって、地価も安くて、まとまった土地が手に入ったことなど、条件が揃ったからですね。

 

たくさんの作物を育てている工藤さんの畑
たくさんの作物を育てている工藤さんの畑

── 農業を始めようとなったきっかけを教えてください。

 

工藤さん:29歳の頃、健康不安を抱えていたのですが、そんなときに現地の友人から「You are what you eat.(あなたは食べているものからできているんだよ)」と教えられました。

 

私は子どもの頃から「自分は体が弱い」と思っていたんですね。精神的にも落ち込んだり不安定ですぐ具合も悪くなるので、あらゆる薬が手放せないところがあって。ちょっとプレッシャーのかかる仕事となるとすぐに具合が悪くなり、年中、胃薬や頭痛薬、風邪薬など大きな袋にパンパンになるほど持ち歩いていました。健康に自信がなくて「私、10年後は生きてるかな?」って思うくらい。

 

でも友人のその言葉を聞いてから食生活を見直し、オーガニックのものを食べるようになって。添加物を体に入れないなど、自然のものを体に取り入れることに向き合い、食べ物に気をつけるようになってから、みるみる体質が変わっていったんです。

 

アメリカにいたときはオーガニックを取り扱うスーパーなどが身近にありましたが、帰国した頃、日本では手軽にオーガニックのものが手に入らなくて。特殊なところに行かないと買えなかったんですよね。それで「本当に安心なものを食べたいと思ったら、自分で作るしかないな」と、農業に興味を持つようになりました。最初はトマトをベランダで作り始める程度から始めました。

 

元気に稲刈り中!
元気に稲刈り中!

── そこから本格的に農業に傾倒していかれたんですね。

 

工藤さん:さまざまな季節野菜など、自分の口に入るものは自分で作るんだという気持ちで始め、とことんやる性格なのでいろいろこだわって生産しています。お米も肥料や農薬を使わず、自家採取で日本在来種を自分でつないでいっているんですよ。そんなお米を使ってお酒も造っています。いろいろな農作物を大切に育てているので、自分の子どもを育てているような気持ちです。

自身が経営するカフェでは自家栽培にこだわった野菜でつくるカレーが人気!

── そんな農作物を使ったメニューがいただけるカフェも経営されているとのこと。

 

工藤さん:そうなんです。カフェを経営していて、うちで採れた野菜を使用したメニューを提供しています。自家栽培の野菜をふんだんに使用したカレーが人気です。

 

カレーのスパイスにはとても抗酸化作用があると言いますよね。抗酸化というのがアンチエイジングや病気にならないためにはすごく大事な要素なんですけど、それをサプリメントではなく食品として自然と体に入れられるようになったらいいなと思って作ったのがカレーだったんです。

 

「季節の食材とかを取り入れながら食べたら美味しくて体によくていいよね」とスタッフと試行錯誤して開発しました。サプリメントいらずなくらい、めちゃくちゃ野菜が溶け込んでいます。

 

工藤さんのお店「カフェナチュレ」
工藤さんのお店「カフェナチュレ」

── カフェの内装なども工藤さんが手掛けたそうですね?大工仕事はお得意なんですか?

 

工藤さん:カフェの家具や内装の一部だったり、外のパティオなどを自分で製作しました。アメリカにいたとき、友人のコミュニティファームに3か月くらい滞在させてもらったことがあって、彼らが家を建てたりする作業を手伝わせてもらったときに、そこで大工仕事を習ってからというものDIY好きになりまして。

 

当時安いアパートを買ってそこを自分で改造して売ったらそれが倍ぐらいの値段で売れたんです。その売ったお金でまた家を買って改造してそこを倍にして売って…みたいなことをやって。ハマるととことんやってしまうところがありますね(笑)。

 

田植えに励む工藤さん
田植えに励む工藤さん

自分のこだわりが誰かの役に立つことがうれしい

── カフェには地元の方や遠方からもリピーターが多いそうですね。

 

工藤さん:ありがたいですね。リピーターさんのおかげで成り立っています。うちのカレーを週に2回くらい食べに来てくださる方もいて、「工藤さんのカレーを食べてると調子がいいから食べにきちゃう」と言ってもらうと本当に嬉しいですし、やりがいを感じますね。

 

── 収穫した野菜なども取り扱っているそうですね。

 

工藤さん:その時々で野菜やお米も取り扱っています。うちの食材を食べて、これまで風邪をひきやすく体調を壊しがちだった娘さんが体質改善して丈夫になったというお話を聞いたり、食事を気遣う闘病中の患者さんのご家族がわざわざ買い求めに来てくれたりして「必要としてくれる方に売れてよかった」と。自分のこだわりが、実を結んだなと思えた瞬間でもあり嬉しかったですね。

 

無肥料、無農薬の自然農法で農業を行っている
無肥料、無農薬の自然農法で農業を行っている

 

PROFILE 工藤夕貴さん 

1971年生まれ。東京都出身。1983年芸能界デビュー。映画『逆噴射家族』(1984)でヨコハマ映画祭最優秀新人賞を受賞。アメリカ映画『ミステリートレイン』(1989)出演以降、海外作品でも活躍。『戦争と青春』(1991)では日本アカデミー賞優秀主演女優賞を受賞。主演したハリウッド映画『ヒマラヤ杉に降る雪』(1999)ではアカデミー賞など多くの賞にノミネートされた。主な出演作に『SAYURI』(2005)『ラッシュアワー3』(2007)など。帰国後は静岡県に広大な土地を購入し俳優業の傍ら、無肥料、無農薬の自然農法で農業を行っている。昨年は父である歌手、故・井沢八郎の代表曲「あゝ上野駅」を娘として歌い継ぐべくカバー。感銘を受けた五木ひろしがアンサーソングとなる「父さんみてますか」で作曲に関わり、カバー曲と併せて収録したCDをリリース。演歌に初挑戦し新たな一面も話題となっている。

取材・文/加藤文惠 画像提供/工藤夕貴