杉咲花さんが記憶障害の脳外科医・川内ミヤビを演じ、目の前の患者の人生を通して、記憶を失った自分の人生とも向き合う『アンメット ある脳外科医の日記』(カンテレ・フジテレビ系 毎週月曜夜10時より放送)が4月15日よりスタート。アメリカの大学病院からミヤビが働く病院に赴任してきた謎の脳外科医・三瓶友治を演じる若葉竜也さんに、演じるうえで大切にしていることや、4度目の共演となる杉咲さんへの思いを聞きました。
医療ドラマの「言語化できない部分」と徹底的に向き合う
── 今回『アンメット』に出演するにあたって、特に大切にしたいと思うことは何でしょうか?
若葉さん:『アンメット』は医療ドラマですが、従来のありきたりな医療ドラマではありません。患者のその後や日常、その先に広がる圧倒的な現実が大きな主題だと思っています。数か月かけて何度も原作と脚本を読みながら、『アンメット』が見つめる先を追求していました。我々が生きる現実世界の暗部を描けなかったら、医療ドラマという枠組みだけを深く追ってもあまり意味がない気がしていて。だから、プロデューサーの米田孝さんや監督とも一つひとつのシーンについて密に話をしています。
三瓶という医師は、『心』について「確かに存在している」と受け入れている。理論だけではなくそういった言語化できない感覚的なところがドラマを観てくださる人にどう伝わるかを、大切にしながらつくっていきたいです。
並大抵じゃない外科医のメンタルに寄り添いたい
──『アンメット』は、同タイトルの漫画が原作なので、演じる難しさもありそうです。
若葉さん:原作が好きな人ほど、その人にとっての三瓶像や『アンメット』に求めるものがそれぞれ違うと思うんです。原作ファンの方がドラマに何を求めているのかもそうですし、僕の求める三瓶像もたしかにあります。この作品を通して何を見つめるべきなのか、僕らはただ表現するのではなく、自分の血肉にしなきゃいけないなと。「三瓶が何を大切にしているか」につねに思いをはせながら演じていきたいです。
── 三瓶は治療を受けた後の患者の人生を見つめながら医療を行うことを目指していますよね。それも含め、医師という職業をどう捉えていますか?
若葉さん:「並大抵のことじゃないな」と思います。医師を演じるにあたり、外科医の同級生に話を聞いたのですが、実際の医療現場では、一般的な医療ドラマで見かけるような、手術中に焦ったり、逼迫した空気感が漂ったりといった状況はまず生まれないそうなんです。とにかく冷静に目の前の治療を行わなければ失敗につながる恐れがあるから、「この人を助けたい」と思うことすら邪念だと。目の前に置かれた問題に対して、淡々と対応していくという。手術がうまくいった後に初めて、感情が出てくると聞きました。
経験したことがないから、そういった現実をすべてを理解することは不可能だと思っています。でも、わからないという前提がありつつ、じゃあそこで人間としてどう動くか?三瓶としてどう動くか?できることをしっかりとやりたいです。できる限りのことを、ですね。
── ドラマ、映画、CMでも本当にいろんな役を演じられていて、その時々で印象がまったく違うのがすごいなと思いますが、役作りはどうされているのでしょうか。
若葉さん:僕、役作りって意識したことがなくて。そもそも役作りって何なのか、あまりわかっていないんです。例えば、取材するライターの方の場合、インタビューの前に取材相手のことを調べたり、出演作品を観たりしますよね。それと同じことはします。でも、それが「役作り」と言えるのか?何が基準なのかわからない、というのが正直なところです。
杉咲さんは「気が抜けない、とんでもない人」
── 今作には台本作りから関わっているそうですね。共演される杉咲さんとは、細かい部分まで打ち合わせをされているのでしょうか。
若葉さん:杉咲さんと感情の動きなど細かい打ち合わせをすることはないです。「この役について、自分はこう演じたい」とかもなくて。お互い、どんな芝居がきても大丈夫というか、お互いの芝居を察知しながら自分がやるべきことを的確にやるということなのかなと思います。
杉咲さんと芝居をするときって、お互いがそのときに起きたことに対して自然に反応する身体をお互いが作ってから、現場に臨む感じなんです。お互いがお互いのために存在しているというか…それが理想形だとは思います。とにかく、気は抜けません。とんでもない人なんで。
── ちょっと一般人の理解を超えていますね(笑)。杉咲さんとは映画『市子』や朝ドラ『おちょやん』で共演されています。そこで培った信頼関係があるからこそ、そういうお芝居ができるのでしょうか?
若葉さん:というか、そもそも欲を捨てること、なんじゃないかな。役者であることの自尊心だったり承認欲求だったり、そういうものを捨てる。ただの目立ちたがり屋にならない、ということだと思います。でも、別に自尊心たっぷりの人がいたってよくて。そういう人たちがいないと面白くないので(笑)。ただ、僕の好みとしては、欲みたいな邪念のようなものはないほうがいいなと思います。
── 今回演じる三瓶の好きなところ、応援したいところを教えてください。
若葉さん:三瓶は、優秀な脳外科医として理論的に物事を解釈して、臨床や研究を積み重ねてきて、医療の知識も豊富です。それなのに、誰かに「心に残るんですか?」と聞かれたときに「そうです」と不確定なものを受け入れる面も持っている。そんな優しさみたいなものが、三瓶の一番好きなところかもしれません。
月10ドラマ『アンメット ある脳外科医の日記』4/15スタート 毎週月曜よる10時
杉咲花 若葉竜也 岡山天音 生田絵梨花 千葉雄大 吉瀬美智子 井浦新
PROFILE 若葉竜也さん
1989年東京都出身。2016年、映画『葛城事件』で第8回TAMA映画賞「最優秀新進男優賞」を受賞。数々の映画、ドラマ、舞台でさまざまな役柄を演じる。作品によって違った表情を見せる幅広い演技力で、数多くの作品に出演。若きバイプレーヤーとして評価を高める。3月22日より主演映画『ペナルティループ』が公開。
取材・文/高梨真紀 スタイリスト/Toshio Takeda (MILD) ヘアメイク/FUJIU JIMI 撮影/CHANTO WEB NEWS