「サ活」「ととのう」などの言葉も定着したサウナ業界で、10年以上プロの熱波師として活動を続ける女性がいます。全国にファンも多いレジェンドゆうさんにお話を伺いました。(全2回中の1回)
熱波師は「お客様の命を預かる仕事」
── レジェンドゆうさんが10年以上続けられている、熱波師(アウフギーサー)の仕事内容について教えてください。
レジェンドゆうさん:サウナのストーブで温められたストーンに水をかけて、蒸気浴を楽しむのがフィンランドで発祥した「ロウリュ」と呼ばれる入浴法です。日本では、このロウリュに加え、蒸気の熱い風を扇いで送って体感温度を上げる、ドイツ発祥の「アウフグース」をサウナで行うのが熱波師の一般的な仕事になっています。
熱い風を送りながら室内の温度や湿度を管理しつつ、パフォーマンスやトークをするのでそれぞれに個性が出ます。ただ熱い風を送るだけの人と思われているかもしれませんが、お客様の命を預かっているので、体調面の管理には一番気をつかっています。
サウナでは心拍数が上がりますし、血流もよくなります。汗の出方なども違いますので、それぞれのお客様の様子を見ながら、サウナを出る必要がある方がいらっしゃれば促します。お酒を飲んだら入らないでくださいと注意はしていても、やはりいまだに汗をかくとアルコールが抜けると思っていらっしゃる方がいます。大変危険なのでやめていただきたいのですが、顔や目を見るとわかりますので、しっかり顔を上げて見させてくださいとお声がけするようにしています。
── どのくらいの時間、サウナに入っているのですか。
レジェンドゆうさん:通常、サウナ施設のスタッフさんが扇ぐ場合は7~8分くらいで、ショーなどのパフォーマンスがつく場合はおよそ15分で設定されています。お客様の体調や状況などを考えて多少前後はします。
苦手だったサウナでプロの道へ
── 熱波師を目指すきっかけはなんでしたか。
レジェンドゆうさん:10年ほど前に温浴施設の飲食部門で働いていて、支配人からサウナで熱風を送るサービス、アウフグースをしてほしいと言われたんです。当時の私は、サウナは苦手で、10秒ちょっとしか入れないくらいだったので、すぐにお断りしました。代謝が悪くてなかなか汗をかきにくい体質でした。
でも、支配人からは「お前しかいないから」と言われて。どんなことをするのかも詳しくわからなかったので、サウナでアウフグースをしている施設にとりあえず行ってみました。実際に受けてみたら、「私だったらこうするだろうな」というのが不思議と頭に浮かんできて。
ただ、こんなに熱い場所で仕事をするのは無理だと思って再び断ったのですが、今とは時代も違うので「これは業務命令だ」というふうに半ば強制的に言われてしまって。しぶしぶでしたけど、上司の命令なので「とりあえずやってみます」というところから始まりました。
── どうやって勉強したんですか。
レジェンドゆうさん:とにかく、アウフグースをしているサウナを探してたくさん行きました。あとは自己流です。
── プロとして独立したのはなぜでしたか。
レジェンドゆうさん:アウフグースを始めて 2~3年経った頃、違う職種に異動の辞令が出たんです。職場環境にも不満がありましたし、この先どうしようと思っていたときに、支配人が、「これを続けたいならプロでやっていけばいいんじゃない」と声をかけられました。「そうか、プロという道があるのか」と思って、そこから転向しました。日本では初代と言われる熱波師が5人いるんですけど、そのうちのひとりになります。
サウナを通じて健康を意識
── 汗をかかない体質だったそうですが、それは改善しましたか。
レジェンドゆうさん:だんだん汗をかけるようになって、サウナも嫌いだったのに大好きになり、今では大汗をかけるようになりました。熱い環境で扇ぐので何より体力勝負です。だんだんと健康面に気を使い始めるようにもなり、体質も変わっていきました。水分補給をしっかりして、きちんと睡眠をとることなども気をつけています。1回アウフグースをするとものすごく疲れるので、体のメンテナンスはこまめにするよう心がけています。
それに、風邪もひきにくくなったと思います。以前は体も弱くて2か月に1回は風邪をひいて、一度かかると治るのにも時間がかかっていたのですが、今は年に数回かかることはあっても、治りは早くなったように思います。
── それ以前はどんな仕事をしていたんですか。
レジェンドゆうさん:飲食業を中心に店長業務や、その前は観光会社のバスガイドもしていたんですよ。元々テニスをしていて、就職の際にプロのテニスプレイヤーになるか、バスガイドになるというふたつの夢があったんですけど。亡き父から、「万が一、体を故障したら続けていけないからテニスは絶対ダメだ」と言われて、もうひとつの夢だったバスガイドになりました。
── 人の注目を集めるという意味では通じるものがありますね。サウナブームで話題に上がることも多い職業ですが、女性の熱波師は少ないそうですね。
レジェンドゆうさん:妊娠中はサウナを避けた方がいいですし、プロとして活動するにあたって、全国各地に移動する必要があるというのも影響していると思います。家族の理解がないとできない仕事ですね。サウナは男性の利用者様が多いのですが、タオルで隠しても基本的には裸で入るものですので、男性のサウナに女性の熱波師が入ることを嫌がる方もいらっしゃいます。女性のお客様も増えていますので、女性の熱波師の需要はあるものの、熱波師が男性ほどの数になるにはなかなか難しい部分もあるのかなとは感じています。
── 「サ活」「ととのう」などの言葉もすっかり定着してきていますが、サウナブームが長く続いている理由はなんだと思いますか。
レジェンドゆうさん:サウナに入ることで、リフレッシュできることが大きいと思います。何かつらいことや大変なことがあっても、サウナに行ってたくさん汗をかくことで、気持ちがリセットされます。明日からまた頑張ろうという活力になることが、リピーターが多い理由だと思います。
施設ごとにストーブの形も違いますし、それによって湿度なども違うので、ぜひ気に入ったところを見つけていただけたらと思います。普段、携帯電話を持ち歩いている方も、サウナの中ではいったんその束縛から離れてみると、気持ちもリセットされますよ。代謝が良くなってくると食べるものにも意識が向いていきますし、健康への第一歩にも繋がると思います。
PROFILE レジェンドゆうさん
プロ熱波師。ドイツサウナ協会公認アウフギーサー。熱波甲子園にて、パフォーマンス部門優勝、2年連続ソロ部門準優勝、アウフグース選手権3位などの実績を持ち全国にファンも多い。
取材・文/内橋明日香 写真提供/レジェンドゆう