コロナが流行り始めた2020年、高熱を繰り返すもコロナでもインフルエンザでもなく、体調の異変にとまどった藤岡さん。国指定の難病が発覚するまでの状況や心持ちを聞きました。(全3回中の2回)
原因不明の「高熱を繰り返す」ようになって
── 藤岡さんは、小さいときからバスケットボールの強豪チームでプレーをして、日本代表のキャプテンまで務めました。そんななかで体調に異変を感じたというのは、いつごろのことですか?
藤岡さん:2020年2月ごろに、いきなり40度の高熱が出て入院することになりました。思い返せばそれより前にも何度か同じようなことがありましたが、病院を受診したのはそのときが初めてですね。
ちょうど新型コロナウイルスがはやり始めた時期で、自分も感染したのかと病院へ行ったんです。当時は寮生活でしたので、チームメイトに感染拡大させてしまったのでは、と気が気ではありませんでした。
しかし、検査の結果はコロナもインフルエンザも陰性。内心ホッとしたものの、腹部に炎症が見つかり即入院に。熱も炎症もおさまって1週間ほどで退院したのですが、原因はわからないままでした。
その後も突然、高熱が出ては下がるのを不定期に繰り返すようになり、多いときは週に1回のペースで発熱することもありました。
── どのような症状が出るのでしょうか?
藤岡さん:高熱と腹痛、重い倦怠感が主な症状なのですが、予兆がまったくなく突然あらわれます。熱が下がれば検査の数値も正常ですし、お医者さんも首をかしげるばかりで。
病名もつかなければ治療法もはっきりせず、薬も処方はされるものの、あまり効いている様子もありませんでした。
とはいえバスケットのほうも、プレーヤーを引退して母校で指導者になろうと決めていたときで、症状のないときは日常生活もふつうに送れるので、まあいいかなと思っていたんです。
発症から2年かかって病名が「家族性地中海熱」と判明
── それからどのような経緯で病気が特定されたのでしょうか?
藤岡さん:引退してから再びプレイヤーに復帰することになり、そのチームの本拠地で別の病院を受診したのがきっかけでした。症状や経緯を話したところ、2022年の6月に『家族性地中海熱』と、診断を受けました。
国の指定難病で日本では約500人しかいないといわれる珍しい病気で、突然高熱が出たり、漿膜(心臓や肺を包む膜)に炎症が起きて、お腹や胸、さらに関節などに激しい痛みがあらわれます。
まだ根本的な治療法もはっきりとはわかっておらず、だからこそ、特定が難しかったようです。
これまでは消化器内科を受診していたのですが、家族性地中海熱の専門はリウマチ内科になるそうです。違う病院にかかったことが結果的にはよかったのかなと思います。
── 最初に入院してから2年以上たってようやく病名がわかったわけですが、診断を受けたときはどのような心境でしたか?
藤岡さん:難病という診断ではありましたが、正直、ホッとしましたね。自分の体なのに、何が何だかわからない違和感がずっとありましたから。
また、練習や試合を休んで迷惑をかけてしまうことも多く、やっと周囲に状況を説明できることに安心しました。
体調が不安定なことは話していたものの、症状が出ないときは元気にすごせるだけに、自分はどういうふうに思われているのだろう…と内心では引け目を感じていたんです。
チームメイトに打ち明けると、泣いてしまう子もいたりして、これほどまでに心配してくれていたのかと気づかされました。
SNSで病気を公表「多くの人に病気のことを知ってほしい」
── SNSで病気を公表したときも反響が大きかったようですね。
藤岡さん:そうですね。ファンの方からの温かいメッセージにはずいぶん励まされましたし、同じ病気や症状に苦しむ方からも連絡をいただくこともありました。
あまり知られていない病気なだけに、以前の私のように原因がわからず苦しんでいたり、病気のことを周りに理解してもらえずに悩む方もいるかもしれません。私が発信することで、少しでも多くの方々に知ってもらえたらうれしいですね。
── 最近の体調はいかがでしょうか?
藤岡さん:現在は月に1回、通院して注射で薬を投与する治療を受けています。完全な治療法が見つかってないので、いまのところは注射を続けていくことになります。
おかげさまでこの治療をスタートしてからは経過も良好で、症状が出ることも減ってきました。心身ともに落ち着いて生活ができるありがたみを実感しています。
病気とケンカせず、仲良くつき合いながらではありますが、これからもプレーヤーとして、コーチとして、精力的に活動をしていきたいと思っています。そして、私と同じ病気と診断を受けながらも日々がんばっている方に、元気や勇気を届けていきたいです。
PROFILE 藤岡麻菜美さん
1994年千葉県生まれ。千葉英和高から筑波大を経て2016年JX-ENEOS(現ENEOS)へ入団し、一度引退するも2021年にシャンソンVマジックへ復帰。女子バスケットボール日本代表を学生時代から経験し、2017年ユニバーシアードで主将として準優勝、同年FIBA女子アジアカップでは優勝へと導く。2022年に国指定難病「家族性地中海熱」の診断を公表。現在は3人制プロチームのTOKYO DIMEでプレーをしながら母校・千葉英和高のコーチを務める。
取材・文/大浦綾子 画像提供/藤岡麻菜美