息子が生後10か月でシングルファザーになった人気ラッパーの十影さん。つねに「息子ファースト」で育児と仕事を両立しています。そんな十影さんが世の中に対して思うこととは。(全3回中の2回)

ぼんやりしてる時間なんかない!超過密スケジュール

── 普段はどのようなスケジュールで過ごされていますか?

 

十影さん:コロナ禍に自分にできることはないかとバナナジュースのお店を立ち上げたので、その運営とライブ活動、それ以外は育児、という感じですね。基本的に週末はキッチンカーでイベントに出店したり、ライブ活動を行ったりして仕事をして、平日は保育園に息子を預ける時間帯以外はワンオペで面倒をみています。

 

平日の昼間、息子が保育園に行っている間に、バナナの仕入れや仕込み、実店舗への搬出搬入を午前中に済ませ、午後は買い出しに行ったり家の掃除や子どものご飯を作ったりして、うまく時間をやりくりしながら、音楽活動も続けています。

 

ラッパーの十影さん
2023年5月に砂町銀座商店街にオープンしたバナナジュース店「TOKABANANA」の前で

── 登園後に保育園から呼び出されることもありますよね。そういうときはどうしていますか?

 

十影さん:バナナジュースの材料の搬入など優先的にやるべき仕事は午前中に済ませて、何かあったときに対応できるようにしています。保育園には、お迎えの電話をもらってから到着まで1時間はかかりますって伝えていて。朝から調子が悪そうなときは、保育園を休ませて仕事もなしにすると決めています。

「自分の都合でシングルになったのに」後ろめたさも

── 仲が良いパパ友やママ友にお迎えを頼んだり、ちょっと預かってもらったり、ということは?

 

十影さん:僕はそういうときはファミリーサポートを使っています。どうしてもお迎えが17時を過ぎるときは、ファミサポさんに迎えを頼んで20時くらいまで預かってもらうこともあります。

 

── シングルファザーやシングルマザーの場合、身近な人にサポートを頼みづらいというのもあるかもしれません。

 

十影さん:そうですね。自分の都合でシングルになったのに、子どもをみてもらいたいとは言いづらいっていうのはやっぱりあります。負い目に感じるというか…。でも実際は、子どもに笑顔でいてほしいって思ってくれてる人のほうが多い。すごく周りの家族に助けられていると思います。

 

ラッパーの十影さんと息子さん
最近2歳になった息子さん。可愛いケーキでお祝い!

── シングルファザーの大変さは、まだ世間には伝わりにくいと思います。

 

十影さん:自分はあまり大変って思っていないんですけどね。“やらなきゃいけないならどうにかしよう”って考えるタイプなので。“問題をどうやってクリアしていくか”を最初に考えて段取りをすれば、自分も子どももキャパオーバーでパンクしないですむはずって思うんです。友人と会うときも、”育児が大変だ“ってグチるより、子どもが可愛いって話ばかりしてしまう。だから周りからも”楽しそうだね“って言われますね。

大変というより「こんなに子どもと一緒にいられるなんて贅沢」

── ママ同士が集まると、育児やパパへの不満で盛り上がったりしますが…(笑)。

 

十影さん:子どもが生まれると夫婦仲が悪くなるパターンが多いじゃないですか。だいたい、夫が子どもの面倒をみないのが原因になっている気がします。夫の言い分は自分は忙しく働いているから、妻が育児をするのが当たり前っていう考え。だったらもう、夫婦の役割を逆にすればいいのにって思うんですよね。妻が働きに出て、夫が子どもの面倒を見る。そうしたら、妻は夫がお金を稼いでくるありがたみもわかるし、夫は育児の大変さも実感できるはずです。

 

── 確かに、お互いの立場を経験しないとわからない部分もありますね。

 

十影さん:ただ僕も、20代で今の状況だったら、ストレスを感じて無理だった気がするんですよね。夜遊びに行けないとか、自由を奪われたような感覚に陥ってしまったと思う。40歳の今は正直、そんなに遊びに行きたいとも思わなくなっているので(笑)。

 

── お子さんとの日々を、どのようにとらえていますか。

 

十影さん:育児が大変って思うよりも前に、2歳のわが子とこんなに一緒にいられるなんて贅沢だなって実感しています。元々子どもが欲しかったし、今の僕は母親であり父親でもある。世間では、父親が働きに出て女性が家を守るの当然という感覚がいまだに残っているけれど、そういうのはもう本気で終わらせたほうがいい。シングルファザーのメリット、デメリットっていろいろありますが、僕にとっては、2倍の大変さも降りかかってくるけれど、ラッキーなこともそれ以上にある。だからいろんなことを乗り越えられるって思うんです。

哺乳瓶洗っただけで「#イクメン」って…

── 男性も女性も分け隔てなく、育児に参加するようになるといいですよね。

 

十影さん:ママのほうも、“オムツ替えだけじゃなくて、疲れているから保育園の送迎もやってほしい”とか、はっきり言うべきだと思うんですよ。そしてパパももっと育児を手伝ってあげるべき。なんでもひとりでやろうとするから、仲が悪くなるのだと思う。僕は子どもが生まれたときに、1か月仕事を休みました。

 

ラッパーの十影さんと生後間もない息子さん
息子さんが生まれた直後の一枚。十影さんの優しい目が印象的です

── 十影さんが、育児休暇を取ったんですか?

 

十影さん:そうです。もしかしたら会社員だと難しいのかもしれないけど、当時は自営業だったので。最初の1か月は夜泣きも大変で、その対応も基本的に僕がやっていました。寝ぼけながらミルクを作って飲ませて。そういう育児は率先してやっていましたね。

 

── 産後は、交通事故に遭ったのと同じくらい体力を消耗しているとも言いますよね。

 

十影さん:後輩に子どもが生まれたって聞いたときに、“最初の1か月くらい奥さんのために会社を休めよ”って言ったんです。そうしたら“そんなこと、会社が許してくれるわけないじゃないですか”って返された。すかさず“だったらそんな会社辞めちゃえよ”って言ってやりました。

 

── 最近は『出生時育児休業』として男性も育児休暇を取ることが推奨されるようになってきましたね。

 

十影さん:この前、“夫が会社に行く前に哺乳瓶を洗ってくれた”っていうSNS投稿があって、それに「#イクメン」ってタグがついていて驚きました。“哺乳瓶を洗っただけでイクメンなのかよ!”って(笑)。

 

【動画】シングルファザー / 十影 pro.DJBA

PROFILE 十影さん

1983年生まれ、東京都出身。ラップクルー『LUCK-END』のメンバー。自然体でユーモアセンスあふれる楽曲に人気が集まっている。2008年にインディーズデビュー。ソロとしても活躍。作品に『神がかり』『ネ申物語』など。

 

取材・文/池守りぜね 写真提供/十影