『保育園神』というタイトルで、保育園や保育士さんへの感謝を並べた歌詞が話題のラッパー、十影さん(40)。プライベートでは、2歳になる息子・あゆむ君の育児に奮闘中のシングルファザーです。息子の世話を一手に引き受けるシングルファザーの日常についてお聞きしました。(全3回中の1回)
生後10か月でシングルファザーに…DMで誹謗中傷が届くことも
── 十影さんがシングルファザーになったのはいつ頃ですか?
十影さん:僕がワンオペで育児を始めたのは、息子が生後10か月だった2022年11月からです。息子はまだハイハイしかできない時期でしたが、パートナーといろいろあって。2週間くらい話し合って僕が面倒をみることになりました。
── それ以前はどれくらい育児を?
十影さん:音楽活動などは元々週末がメインだったので、平日は僕がひとりで子どもを見ていて。料理も作るのは前から得意だったし、離乳食教室にも僕が行ったりしていました。シングルファザーになってからもそれまでと状況が変わらなかったので、スムーズに受け入れられたほうだと思います。環境の変化に対してのストレスはあまりなかったですね。
── シングルファザーになったことは、周囲の方にすぐに伝えたのでしょうか?
十影さん:アーティスト活動をしていたのもあって、本当に親しい間柄の人にだけ伝えました。今も息子を預かってくれる家族が3、4組いて。ありがたいです。
── シングルファザーになって困ったことはありましたか?
十影さん:僕の仕事は夜に入ることも多いんですが、息子が生まれてからは夜に出かける仕事は減らしました。シングルファザーだという事情を知らない人からしたら、“なんだかつきあいが悪くなったな”って思われるかもしれないけれど、それはしかたないことだって考えています。
それより「母親の愛情がないのはよくない」みたいなことを言われるのがつらい。SNSのDMで“どんな事情があったのかわからないけれど、母親から子どもを引き離すなんてひどい”とか、“母親の愛情を知らないとダメな子に育つ”っていうような誹謗中傷も届いたりして…。でも気にしないようにしています。
── そういうときは、どのようにして気持ちを切り替えていますか。
十影さん:持論なのですが、実家が裕福で両親から愛情を受けていても、グレてしまう人はいる。僕の知り合いで、施設育ちで中卒だけれど起業して部下が100人以上いる会社を経営している人もいる。僕は息子にはすべて愛情を注いでいるけれど、それが良かったかどうかって言う結論を決めるのは、息子だと思うんです。だから、周りから何と言われても母親役も全部やろうと思っています。まあ、今もやっているつもりですけど(笑)。
子育てで自分が育ててもらっている感覚
── 子育てで心配なことはありますか?
十影さん:保育園の送迎を見ていると、ほとんどの家庭はママが来ていて。うちは基本的に全部父親が行くことになるから、(ママが来ないのは)少しかわいそうかな…って思うときはあります。母親には定期的に会わせているけれど、まだ全然物心はついていないので。シングルファザーという状況を理解できるようになったとき、どう感じるのかなっていう心配はあります。でもそれも試練のひとつだととらえていますね。
── 家事が大変だなと感じることはないですか?
十影さん:結局、料理を含めて家事や寝かしつけも全部やってきていたので、苦ではないんです。子どもの服は、シングルマザーの友人にどんなものがいいか聞いて、自分で買いに行っています。あえて言えば、掃除がちょっと苦手かな(笑)。
今はミルクも卒業して、指しゃぶりもしなくなりました。息子の成長過程にかかわれたのは良かったです。これからトイレトレーニングが始まる。息子の育児によって、自分も育ててもらっている感覚です。
── 家事が苦じゃないってすごいです。元々面倒見のいいタイプなのかなという印象も受けました。
十影さん:アーティスト活動のなかでも団体の代表(HIP HOP CREWの『LUCK END』)を務めてきたので。僕を慕ってくれる後輩にご飯を食べさせたりとか、そういう面倒をみることが好きというのはあるかもしれません。
── お子さんとはどのような遊びをしていますか?
十影さん:まだ2歳なので、遊具で遊んだり、おいかけっこしたり。ボール投げもします。家の中だと、本を読んだり一緒に歌ったりしていますね。今は息子がやりたい遊びが10分とか20分ですぐ変わってしまうので、それも含めて一緒に楽しんでいる感じです。息子も、僕とは大きな友達みたいな感覚で接しているんじゃないかな。
── お子さんを叱るときは、どんなことに気をつけていますか?
十影さん:危ないことをしたら怒るけれど、子どもには上から目線では接しないって気をつけてはいるんですが、なかなか難しくて…。ママ友にアドバイスをもらいながら勉強中です。最近はたとえば、息子が皿を投げてしまって、料理がベチャって床に散乱したとしたら、叱るのではなくて手で顔をおおいながら“えーん”って泣きマネをしたり(笑)。
── 十影さんが“えーん”と泣きマネを(笑)。
十影さん:“そういうことしたらパパは悲しいんだよ”ってわかってもらいたいなと。でも、“ダメだよ”って怒った後でも、息子が“うふふふ”って笑うと、思わず自分も笑い返しちゃうんですよね。とはいえ、2歳だと危ないこともたくさんあるので、そういうときは大きな声を出して、”ダメだよ”って言えるようにしたいです。小さな男の子って、”いたずらがカッコいい“みたいに思っちゃうところがあって(笑)。それもどう叱ればいいのか、日々勉強中です。
── 優しいパパなんですね。大きくなったら、一緒にやりたいことはありますか?
十影さん:共同作業がしたいですね。キャンプに行って火をおこしたり、テントを張ったり。あと、僕はバイクに乗ってツーリングに出かけるのが好きなので、もう少し大きくなったら一緒にバイクで出かけたい。でも、自分の趣味を子どもには押しつけたくないって思っていて。旅行に出かけるにしても、子どもが好きなことややりたいことを最優先にしたい。やっぱりもう、人生のピラミッドの頂点が息子なんです。
PROFILE 十影さん
1983年生まれ、東京都出身。ラップクルー『LUCK-END』のメンバー。自然体でユーモアセンスあふれる楽曲に人気が集まっている。2008年にインディーズデビュー。ソロとしても活躍。作品に『神がかり』『ネ申物語』など。
取材・文/池守りぜね 写真提供/十影