歌手で俳優の森公美子さんは、2019年に最愛の母を亡くしました。「母は病院でも大笑いするような話をたくさん持っている」というエピソードについてお話を伺いました。(全3回中の2回)

「演劇界は窮地に追い込まれていた」

── コロナ禍で、舞台への影響は大きかったと思います。

 

森さん:譜読みの時もマスクをして、ひとりずつパーテーションを立てて。マスクではうまく歌えないのでフェイスシールドをつけるというのを2022年までしていました。本番のときだけ取るのですが、どんなに対策をしても出演者の中でコロナが蔓延してしまうこともありました。コロナ禍で演劇界は窮地に追い込まれていたと思います。

 

森公美子さん
楽屋でメイク中の森さん「オーラがすごい!」

2020年3月には岸谷五朗さんと寺脇康文さんが主催の演劇ユニット「地球ゴージャス」の舞台「星の大地に降る涙 THE MUSICAL」に出させてもらっていたのですが、公演が途中で中止になってしまって。すごくいい作品だったので、終わってしまうのが本当に残念でした。

 

当時、「リモートでいいじゃないですか」と言われても、やっぱり舞台だけは、出演者やオーケストラ、お客様とみんなで作るものなのになと思っていました。リモートでは、参加しているという意識は薄くなってしまうと感じていて。舞台には消しゴムがないので、撮り直しができないのですが、今この瞬間をみんなで作り上げるという舞台ならではのよさがあると思います。

 

今年になって、作品数もどんどん増えていますし、海外公演を予定している作品も出始めていて、本当によかったなと思っているところです。

母を失って知る偉大さ

── 最愛のお母様を亡くされたのはコロナ禍の前だったそうですね。

 

森さん:母は2019年の3月に亡くなったんですが、病院にも会いに行けましたし、お葬式もみなさんに来ていただけたのは本当によかったと思っています。母は最期までしっかり話せていたのですが、「今回は違う」と言っていたんです。「もういいかな」ということも聞かれて、「ママの好きにしていいよ」と声をかけたのが亡くなる前日でした。

 

森公美子さん
稽古場にて可愛らしいハロウィンのバルーンに囲まれて

母は私が帰ってから、翌日の午前3時に亡くなったんです。この仕事をしていると、「親の死に目に会えない」とは言いますが、私は父の死に目にも会えませんでした。母が棺に入った姿を見て、「綺麗だね」と声をかけたんですが、今もその綺麗な母の顔の印象が強く残っています。身内の死に目に会えない方もいらっしゃるかと思いますが、決してそれは不幸ではないと思います。おそらく私は、最期の瞬間に立ち会っていたら、あとがツラすぎたと思います。

 

母は88歳でしたし、お葬式に来てくださるお友達もそんなに多くいないかなと思って家族葬にしたんですけど、結構な人数の方がいらして。お花もたくさん届きました。母の偉大さを感じましたし、面白い人を亡くしたと改めて思いますね。

 

── お母様はユニークな方だったそうですね。

 

森さん:心不全を発症して数年経っていたのですが、ICUにいても笑かしてくるような母でした。お化けが出ると噂される病院だから怖いと言っていたんですが、トイレに行ったら右手を引っ張られるみたいで、「お化けだ!」と思って緊急の呼び出しボタンを押したそうなんです。

 

すぐに看護師さんが来て、「どうしました!?」「お化けが手を引っ張ってる!」とやりとりをして、看護師さんが右手を見たら「これ、点滴ですね〜」って(笑)。母は大笑いするような話をたくさん持っているんですよ。

 

ひな祭りの日がお葬式だったのですが、「世が世なら私は姫だったから」なんてことをいう母だったので、祭壇にもひなあられをのせました。さすがにお人形はやめましたけどね。やっぱり母のことを思い出すと泣けてきますが、本当に面白い母でした。母のこういう、人を笑かそうという姿勢は見習わなきゃと思うんです。コミュニケーションの取り方はいろいろですが、私は積極的に自分から関わっていって周囲に笑顔を作れる人でありたいと思っています。

 

── 森さんのご活躍をお母様はどのようにご覧になっていたのでしょうか。

 

森さん:昔からリーダーシップがあって、幼い頃もガキ大将みたいな感じで「ついてこい!」と男の子も引き連れていくようなタイプだったので、母はこの仕事が向いていると言ってくれていましたし、いつも応援してくれていました。

 

小さい頃から父の影響で海外の音楽やジャズを聴いて育ち、14歳の頃にはジャズ歌手になりたいと思っていました。念願だったその夢を去年、63歳で叶えたんです。ジャズは新人ですし、14歳で抱いた夢も今は63歳の歌しか歌えないんですけど、それでもちゃんとオファーもいただけて。

 

音楽をしたいならまず基礎を学びなさいというのが母の教えだったのですが、それがのちのち活きています。ジャズには自分のストーリーも歌のストーリーもなくては歌えません。いつか自分なりのジャズが歌えたらなと思います。夢っていつなんどき、叶うかわからないものですね。これからも持ち続けていたいと思います。

 

 

PROFILE 森 公美子さん

宮城県出身。歌手・俳優。昭和音楽短期大学卒業。二期会会員。定評ある歌唱力と魅力的なキャラクターで、数々のTV番組、ドラマ、CM、舞台と幅広く出演している。2014年「天使にラブ・ソングを〜シスター・アクト〜」第40回菊田一夫演劇賞受賞/主演:デロリス・ヴァンカルティエ役。

 

取材・文/内橋明日香 写真提供/森 公美子