女優・タレントの北原里英さんは、インタビュー中に何度も「私、優等生なんです」と話すほど、きちんとしたいタイプだったそう。しかし、映画の撮影をきっかけに本気で腹を立てたことで「初めて自分の“本性”を出した」と話します。(全4回中の4回)
すごく幸せだったけれど…過酷すぎた映画の撮影で
── これまでの仕事で忘れられない思い出はありますか?
北原さん:以前、主演させていただいた映画『サニー/32』の撮影のことをよく覚えています。
自分で言うのもなんですが、私、めちゃくちゃ優等生タイプで(笑)。スタッフさんに対して機嫌が悪くなるとか怒るとかって、絶対にしないんです。
『サニー/32』自体は、共演者の皆さんも豪華で、すごく幸せな仕事でした。でも、撮影が過酷すぎて、一年で一番寒い真冬の新潟県で、雪の中、超薄いピンクの衣装を着て撮影をしていました。毎日、ものすごくツラくて。
── 映画ではドレスのようなミニの衣装を着ていましたよね。
北原さん:雪深い奥地をひとりで歩くシーンを撮影したとき、ついに限界を感じてしまって。私のいる場所からカメラが遠く離れたところにあったんです。スタート地点まで行くのもすごく大変だったのですが、どこでカットがかかるかわからないなか、真っ白な雪の上をただひたすら歩き続けなきゃいけなくて。
── 北原さんがたったひとり、雪に埋もれていく姿が印象的でした。
北原さん:まず、山の雪道なので、とにかく一面雪しかなかったんですよ。歩くうちに「ここは本当に道なのか!?」「これって安全なのか!?」って疑いの気持ちまで出てきて(笑)。
ヘラヘラ笑っていた監督に腹が立ちすぎて
── それはそうでしょうね…。お気持ちわかります。
北原さん:重ねて言いますが、私、優等生なので、カットがかかる前に諦めるとかは絶対にしないんですよ。やると決めたことは最後まで絶対にやりきるタイプなんです。そんな私でも、あの雪の中の撮影はあまりにもツラすぎて、カットがかかる前に動けなくなっちゃったんです。「もう無理…!」って。
そうしたらやっとカットがかかったんですけど、スタッフさんが助けに来てくれるまでめちゃくちゃ時間がかかったんですね。もう私、雪の中でぶるぶる震えながら待ってて。
ようやく雪のない道に出られたときに、白石(和彌)監督が「大丈夫だった?」って声をかけてきたんですけれど、なんだかヘラヘラしてるんです。それを見て私、あまりに腹が立ちすぎて!人生で初めて人を無視しました。しかも、偉い監督さんを。
── 監督を無視…!
北原さん:もう、ムカつきすぎて!でも、それ以来、白石監督と距離が縮まって、すごく仲よくなれたんですよね。
── 逆に仲よくなれたんですね。
北原さん:私、それまでいい子ちゃんすぎたんですよね。面白くないから、指導者の方々とも仲よくなるのも苦手で。優等生すぎてかわいがられにくい、みたいなところがあったと思います。
現場の偉い方たちと距離を縮めることにも苦手意識があったんですが、『サニー/32』のときに自分の本性が出たことで、白石監督とすごく距離感が縮まって。監督と女優としての良い関係性が築けたと実感できた作品になりました。女優として、猫かぶりの壁のようなものが壊れた瞬間だったと思います。
「小説を書ける芸能人を探している」オーディションに参加して
── 今年夏には小説家としてデビューされました。どんな経緯で小説を書かれたのですか?
北原さん:出版元のKADOKAWAさんが「小説を書ける芸能人を探している」と、マネージャーさんからお話をいただいて、オーディションのようなスタイルで作品を読んでもらったんです。「ポエムでもエッセイでもいいから、短い作品を2つ送ってください」と言われて。
私、昔から文章を書くのが好きだったんです。2つ作品を送ったら、編集部の方から「光るものを感じます。一緒にやりましょう」と連絡をもらえました。
まさか自分が小説を書くなんて思ってもみなかったし、正直、書き始めた頃は「ちゃんと完成して1冊の本になるのかな?」と不安でした。ただ、担当の方から「北原さんはルームシェアも豊富だからその経験をテーマに書きませんか?」とヒントをもらって。そこから書き進めて『おかえり、めだか荘』になりました。2年かかっちゃいましたけど。
── 2年かけて書かれたんですね。
北原さん:いざ書き始めてみると、決して順調ではなくて、締切りもなかなか守れなくて、「書かなきゃ」ってプレッシャーと闘った2年でした。今はもう締め切りに追われていないのですごく楽で(笑)。
── お芝居や歌などとは表現方法がまた違っていて、読んでいるこちらも北原さんの新しい一面を知ることができて面白かったです。
北原さん:私も面白かったです。あと、みんなが感想をくれたのですが、それがやっぱりすごくうれしくて。いつか2冊目にも挑戦したいです。
子どもがすごく好き。お母さん役をしたい
── 今後の目標としては、どんなことを考えていますか?
北原さん:まずは『おかえり、めだか荘』を映像化できたら嬉しいなぁと(笑)。女優の仕事では、せっかく結婚したのでお母さんの役に挑戦したいですね。子どもがすごく好きなので、一緒にお芝居をするのがすごく楽しくて。相手が小さな子だと余計なことを考えずに自然体で演じることができるから、自分にも合っている気がしています。だから、子どもとの共演がもっと増えるといいなぁ。
あと最近思うのは、カレーを作るのが趣味なので、カレー屋さんを開くのもいいなって。でも一番は、まわりの人を大切にして幸せにできるような人生を歩むことですね。
PROFILE 北原里英さん
女優・タレント。愛知県出身。2007年、AKB48第二回研究生(5期生)オーディションに合格し、翌年デビュー。同年から長く選抜メンバーとして活躍する。2018年春、初代キャプテンを務めていたNGT48、AKB48グループともに卒業。以後、女優・タレントとして活躍の幅を広げている。2021年、俳優の笠原秀幸氏との結婚を発表。2023年8月には小説家デビュー作となる『おかえり、めだか荘』(KADOKAWA)を発売した。
取材・文/高梨真紀 写真提供/北原里英、(C)AKB48