76歳の今もなお話題作に出演し、精力的に活動する井上順さん。最近はX(旧Twitter)のダジャレが光る投稿にも注目が集まり、フォロワーは6.3万人にのぼります。若い世代にも知られる存在となり、当のご本人はどう感じているのでしょう?(全4回中の1回)
芸歴50年以上も「演技はちっとも上手くなっていない(笑)」
── 最近は連続テレビ小説『らんまん』で弘法湯の主人役、『VIVAN』では主人公の叔父役と、ドラマ出演が話題になりました。
井上さん:お芝居の仕事のときは、その役らしい雰囲気を出せればと思って演じています。何十年もやっていますが、自分で上手だと思ったことがないし、ぜんぜん上手くなってないんですよ(笑)。演出家の方がOKを出してくれると、及第点をもらえたかなとホッとします。
── そうなんですか? 謙虚ですね!
井上さん:最初にドラマに出演したのは22、3歳のときで、森光子さん主演の『もうれつ大家族』という作品です。森さんに「お芝居のことがわからないんです」と打ち明けたら「台詞を覚えてくること。遅刻しないこと。この2つを守るといいわよ」とアドバイスしてくれました。基本中の基本ですが、確かにセリフを覚えているだけで余裕ができる。遅刻しないことでも余裕ができる。さすが森さんですよね。
それが今も身についていて、どんな現場でも集合時間のだいぶ前に到着します。スタッフに「あんまり早く来ないでください」って言われることもあるけど(笑)。僕を育んでくれたのは、人や作品、タイミングなど、いろんなものとの出会いが本当に大きいと思います。
「渋谷区名誉区民」がきっかけ。73歳でSNSを初体験
── 出会いといえば、井上さんのX(旧Twitter)は渋谷の魅力と楽しいダジャレが満載で、幅広い世代に愛されています。スタートから3年半毎日更新していますが、大変ではないですか?
井上さん:まぁ、大変なときもありますよ。3年半も毎日続けてるって、たいしたもんだなと自分でも思うね。ははは。たくさんストックしてるわけじゃないから、ネタがギリギリまで決まらないこともあるし。そういうときは家の中のレコード棚を見渡したりしていると、「あ、これだ!」と思いつくんです。
いちばん大事にしているのは僕自身のことより「僕目線の渋谷を伝えること」だから、渋谷区の広報や観光課の方に教えていただいたり、渋谷経済新聞でおもしろそうなことを調べて出向いたりもしています。
── 携帯やパソコンの操作はもともとお得意だったんですか?
井上さん:いやいや、機械に弱いので、最初のころは指1本でなんとか文字を打ってました。30歳年下のガールフレンドにXのやり方を教えてもらって、「1番目にこうする」「2番目にこうする」って紙に書いて、それを毎日やっていきながら覚えました。今でも必要なことしかできないです。
── Xは2020年に渋谷区名誉区民として顕彰されたことがきっかけで始めたそうですね。
井上さん:渋谷区には『くみんの広場 ふるさと渋谷フェスティバル』という大きなイベントがあるんですが、10年くらい前に作家の平岩弓枝さんからご指名をいただいて実行委員長をやっています。会場でお客さんと話したり、清掃をしたり、楽しくお手伝いしていたら、大きな称号を頂戴しちゃった。
僕らの年代は何かしてもらったら、お返しするのが当たり前。それで、渋谷で生まれ育った僕の知っている渋谷の移り変わりを紹介できないかと思ったんです。
最初はYouTubeをやるつもりだったんだけど、映像を撮る人がいないとできない。Xだったら、文字と写真でいいからこっちにしようと。外に出てここで写真を撮りたい!と思ったら、通りすがりの人に「すいません、撮ってもらえますか?」とお願いしています。今まで、けっこうな数の人に協力してもらいました(笑)。
── その気さくさが井上さんが愛されるゆえん、なんでしょうね。
井上さん:どうなんでしょう。ダジャレだって面白いかどうかわからないし、困ったジジイだなと言われてるかもしれない(笑)。でも、僕はダジャレってなごむと思ってるんです。フォロワーさんを増やすことより、見た人が不快にならない投稿、ちょっとクスッとするような投稿ができたらいいなと思っています。
自分でいろんなことを考えたり、出かけるきっかけになるし、脳の活性化にもなってるだろうから、Xを始めて良かったですね。
PROFILE 井上順さん
1947年東京都渋谷区生まれ・在住。16歳でザ・スパイダースのボーカルとしてデビュー。軽妙で気さくな個性を活かし、歌、芝居、司会、舞台など多方面で活躍。2020年1月、渋谷区名誉区民に顕彰。同年4月に開設したX(旧Twitter)が幅広い層から人気を得ている。著書に『グッモー』(PARCO出版)がある。
取材・文/原田早知 写真提供/井上順