女優として活躍し続けている中山忍さん。35年の間、何度も「辞めたい」と言いながら、それでも続けてきた理由とは──。(全5回中の4回)

 

女優の中山忍さん

女優を続けられた理由はただひとつ

── これまであきらめなくてよかったと思うことはありますか?

 

中山さん:私、ずっと演技が下手くそだったと思うんですよ。今も下手くそだと思っています。でも、監督から「役者って下手くそでいいんだよ」と言われたことがあって。「大事なのは、役をつかむことだから」って。今もその言葉を私なりに忠実に守っています。

 

世の中には、「この人、天才だな。すごいな」って思う役者さんがたくさんいます。そのなかで、35年も私がお芝居を続けてこられたのは、ただシンプルに辞めなかったから。立派でもなんでもなくて、ただあきらめが悪かっただけだと思うんです。

 

『ガメラ』という名作に出合えたのもラッキーでした。最近、お会いする監督さんから「小学校のころ、大好きな作品でした」と言ってもらえて。それくらい20年以上経っても愛される作品にめぐり合えたわけですから。

 

自分を引っぱり上げてくれる作品、役者さんや監督さん、スタッフさんたち、もちろんファンの方々に出会えたことが、やっぱりお芝居をあきらめられなかった大きな理由のひとつです。

 

中山忍さん
昨年には大切な愛犬との出会いも。写真は念願のムーミンバレーパークでの一枚(写真提供/中山忍)

何度も「辞めたい」と言っていたけれど

── お芝居を辞めたいと思ったときもあったのでしょうか。

 

中山さん:あります。何度も何度も「辞めたい」と言っては「辞めちまえ」と言われて。恋愛に熱中しすぎて、すぐ「結婚したい」って言ったこともありました。結局、今は独身なんですけどね。

 

私、昔はよく小さなウソをついてマネージャーに叱られていたんです。「明日は朝早いからデートに行っちゃダメだよ」と釘を刺されたのに行っちゃったり。「危ないから車は運転しちゃダメ」と言われて「分かりました」って答えながら、こっそり運転したり。

 

本人はバレるとは思っていないんですけれど、結果、バレているという(笑)。そういうときはさんざん叱られました。

 

ただ、マネージャーはずっと一緒にいてくれて。「こんなに我慢強い人って世の中にいるのかな」と思うくらい、10代の後半から私に大事なことを何度も言い続けてくれました。考えてみると、芸能界の仕事を諦めないで35年も続けてこられた一番の理由は、一緒に走ってくれる人がいたからなんでしょうね。

 

女優の中山忍さん
取材中、中山さんが涙をぬぐう姿を見て、取材チームも思わずもらい泣き

私には厳しい言葉がありがたい

── 人の出会いに恵まれていたのですね。

 

中山さん:そう思います。昔はよく現場で怒られていたし、そういう現場で成長したくて「女優になりたい」と思ってこの道に進むことを決めたところもありました。でも今は叱ってくれる人が本当に少なくなったなと感じます。みなさん、優しい。優しいことはもちろん良いことだと思うのですが、私みたいに甘えてしまう人間にとっては、厳しい言葉もとてもありがたいです。

 

女優の中山忍さん
「現場で一番怖いのは『この人はできないんだ』とあきらめられること」

今は、余計なことを言わない、必要以上に関わらないようにする風潮が強まっていますよね。最近、そのことについて考えされられる出来事がありました。

 

お世話になった監督さんが昨年亡くなり、私がお別れ会の司会進行をさせていただくことになって。その監督は現場ではすごく厳しい方だったのですが、お別れ会の演出の方が「あんなふうに感情を爆発させて突き進んでいくことの味わいって、やっぱりあると思うんです」とおっしゃったんです。その言葉にすごく納得したんですよね。

 

もちろん人を傷つけることはいけないけれど、ときには人にどう思われようと「自分はこうしたい」「この方向へ進みたい」と表現して進んでいくことって、大事なときもあるんじゃないかなと思っています。

 

 

PROFILE 中山 忍さん

1973年生まれ。1988年、ドラマ「オトコだろっ!」でドラマデビュー。出演映画「ガメラ~大怪獣空中決戦~」では日本アカデミー賞優秀助演女優賞などを受賞。以降、ドラマ・映画等幅広く活躍している。9月28日にはBS朝日4K時代劇スペシャル「無用庵隠居修行7」に出演。10月14日・15日にはデビュー35周年バスツアーを開催予定。

 

衣装クレジット:ベスト/テラ(ティースクエア プレスルーム) ニットワンピース/ヌナ(株式会社アンティローザ) シューズ/チャールズ&キース(チャールズ&キース ジャパン) ネックレス、イヤリング、リング/すべてアガット(アガット)

 

取材・文/高梨真紀 撮影/北村史成 ヘアメイク/佐々木博美 スタイリング/福田亜由美