劇団員時代の挫折経験から「厳しい意見は受け流すようにしてきた」という俳優の佐藤貴史さん。最近、妻の言葉でその価値観を変えたといいます。(全3回中の3回)

ダメ出しが3年続いたある日、体に異変が起きた

── 大学卒業後、お笑い芸人を経て、劇団員になられました。劇団での稽古はかなりキツかったと聞いています。

 

佐藤さん:僕は基本的に楽観主義です。人見知りもしないし、危機管理能力がない。「大学に落ちても、公務員試験に落ちてもどうにかなるだろう」と思って生きてきました。

 

ただし唯一、役者業に関してはかなり深い挫折を経験しました。

 

周りの劇団員は真面目に俳優を目指してきた人たちだけど、僕は芸人崩れ。稽古では面白い意見を脚本に取り入れて磨いていくんですけど、「佐藤、お前の演技で誰も笑ってない。これが本番の空気だぞ」と絞られました。

 

そういうことが3年続いたある日、稽古前になると足が震えるようになってしまったんです。また怒られるんだって思うと、どうしようもなく怖くなってしまって。「これはおかしいな」と思って、レンタル屋でヒーリング音楽を借りて流したりするんですけど、なかなかうまく乗り超えられませんでした。

 

本番はお客さんの反応があるからすごく楽しい。だけど、稽古は怒られるからツラい。そのうち次の公演に向けて新しい台本をもらうときは、「どうか僕のシーンがありませんように」と願うまでになっていました。

 

劇団員時代の佐藤さん

── そこから、どうやって持ち直したんですか? 

 

佐藤さん:持ち直せなかったですね。それで「これは無理だ。辞めよう」と決意して、劇団の演出を務める倉森勝利さんと座長の小松和重さんに電話しました。倉森さんは電話に出なかったけれど、小松さんの電話はつながって、とりあえず飲みに誘われたんです。その席で、小松さんが、電話に出なかった倉森さんからのメールを、内緒で見せてくれました。そこには、「佐藤が辞めるって言ってるけど、どう思う?俺は佐藤が劇団にとって必要な俳優に育ってきたと思うから、辞めてもらっては困る」と書いてあったんです。

 

今まで倉森さんにはきつく叱られきたから、必要とされていることがわかって、涙が止まらなくなりました。

 

── それで残ることに決めたんですね。

 

佐藤さん:そうです。それからみんな稽古で褒めてくれるようになりました(笑)。29歳にしてやっと「役者って楽しいな」と思えるようになったんです。

価値観を変えた妻の言葉

── 楽観主義の佐藤さんが悩まれたのは、役者業がそれだけ大切なものだったからかもしれません。

 

佐藤さん:当時はお笑い芸人を諦めた頃で、「これで役者もダメだったら、僕は何も成し遂げられない」って自分を追い詰めている状態でした。気が張り詰めていたんだと思います。

 

だから劇団に入った頃はダメ出しを全部受け止めていたんですけど、体調に変化が出るようになってからは受け流すようになったんです。その癖は40代になっても続いていました。

 

でも最近、奥さんから「厳しい意見を受け止めて、消化してから次のステップを踏むことも大切なんじゃない?そのほうが人としても素敵になれると思うよ」と言われました。とても響いて、それからは相手の意見を次の仕事に活かすようにしていますね。

 

── それは柔軟ですね。

 

佐藤さん:まあ、基本は楽観的に、好きなことをして生きてきているんですけど(笑)。

大好きなサウナでEテレ出演者と交流することも

── 佐藤さんといえば、サウナ好きとしても知られています。

 

佐藤さん:サウナは25歳の頃、芸人の友達から誘われてハマりました。行ったのは埼玉県の「七福の湯」にある岩盤浴で、そこからサウナにも入るようになりました。

 

「ととのう」という言葉を知ったのは、テレビ番組「みいつけた!」で共演する茂雄(お笑い芸人・サバンナの高橋さん)と出会ってから。彼は銭湯が大好きで詳しいんですよ。サウナに入った後に冷水浴をして、休憩するというサイクルも教えてくれました。

 

コロナ禍前に、Eテレの出演者と行ったこともあります。オフロスキー役の小林顕作さんや、11代目うたのお兄さんの横山だいすけさん、ワンワン役のチョーさん、ジャンジャン役の足立夏海さんと一緒でした。

 

楽しそうな雰囲気!仲の良さが伝わってくるスリーショット(左からサバンナ・高橋茂雄さん、篠原ともえさん、佐藤さん)

── サウナが苦手な人でも楽しめる方法やおすすめのサウナはありますか?

 

佐藤さん:僕の奥さんもサウナが苦手です。そういう人には、薪を使うテントサウナをおすすめしています。温度の上がり方が柔らかいので、心地よく感じてもらえると思います。

 

好きなサウナはたくさんありますが、ひとつ挙げるなら長野県にある「The Sauna」。木々が風で揺れる音を聞きながら、じっくりサウナに入る。携帯を手放してデジタルデトックスもできるから最高です。

 

── 最近は、愛犬コタローとの写真をSNSによく投稿されていますね。

 

佐藤さん:そうなんです。コタローは生後3か月から飼っていて、5歳になりました。

 

僕は子どもがいないんですけど、自分の命より大切にするって、こういうことなのかなと思うこともあります。父性が芽生えたというか、本当に可愛くて、なんだってしてあげたくなります。コタローのご飯を手作りすることもあるんですよ。

 

── サウナや愛犬との生活、日々を楽しんでいる様子が伝わってきます。最近チャイルドコーチングの勉強もされているそうですね。

 

佐藤さん:チャイルドコーチングは子どもとの対話のなかで、相手の才能や潜在能力などを引き出していく手法です。

 

子ども向け番組に長く関わってきたからか、周りの友達から子育てについて聞かれることが増えてきたので、何か返したいなと思って。チャイルドコーチングを学ぶことが、子どもたちの自己肯定感を高めるきっかけになればと思っています。

 

自己肯定感って、その人にとっての生きる希望だと思うんです。他人と比べながら生きると苦しくなるけれど、自己肯定感が高ければ自分軸で生きられる。そうすれば、幸福度が高いまま暮らしていけるんじゃないでしょうか。そういうふうに、誰かをハッピーにできる方法を増やしていこうとしています。

憧れの役者は西田敏行さん

── 最後に、俳優として今後挑戦していきたいことを教えてください。

 

佐藤さん:舞台が大好きなので、それはいくつになってもやりたいですね。もちろん、ドラマも映画も大好きなんですが、お客さんの反応がダイレクトに感じられて、毎回が一発勝負で、どれだけ面白くても公演期間が決まっているのが、舞台の魅力。やっぱり舞台に携わってきた人間として、そこは大事にしたいな、と思います。

 

「舞台が大好き」劇団メンバーと一緒に笑顔の佐藤さん

── 憧れの役者さんはいるんですか?

 

佐藤さん:西田敏行さんです。ドラマ「淋しいのはお前だけじゃない」に出演していた西田さんがもう別格で…!!俳優を目指す前からドラマを拝見していますが、めちゃくちゃすごいっていうのは素人ながらに伝わってきました。

 

あとは、地元の人たちに向けて行う全国ツアーにも憧れています。いつか読者の皆さんにも、芝居でお会いできたらと思っています。

 

PROFILE 佐藤貴史さん

1974年12月17日生まれ、栃木県出身。2000年から劇団「サモ・アリナンズ」に参加する。テレビではEテレ「みいつけた!」でサボさん役としてレギュラー出演するほか、ドラマや舞台、映画などに出演する。資格をとるほどサウナにハマり中。

 

取材・文/ゆきどっぐ 画像提供/佐藤貴史