小学生のときに母親の教えで、おこづかいを自分で銀行に入金していたという荒木絵里香さん。社会人になって投信を始め、コロナ禍では株に注目。そんな荒木さんのマネーライフを聞きました。(全4回中の3回)

 

家庭ではマネーの勉強も!優待でゲットした商品を公開

コロナで活動自粛「お金のことに向き合おう」と学び始める

—— 引退後は大学院に通い、パリ五輪のメダル獲得に向けたサポート役として参加するなど、多方面で精力的に活動されてきました。マネーへの関心も高く、投資もしているとか。そもそも資産運用は、いつから始めたのですか?

 

荒木さん:高校卒業後、実業団に加入し、お給料をいただくようになってからは、自分でお金の管理をするようになりました。当初は、普通預金にたまったお金を定期預金に移すくらいでしたが、そのうち母から「いまは銀行に預けてもほとんど増えないから、少しずつ投資にも目を向けてみたら?」とアドバイスされ、銀行で投資信託(以下、投信)を買うことからスタートしました。

 

とはいえ、その後はバレーの活動で忙しく、本格的に投資やお金について勉強していたわけではありません。ただ、購入した投信の動きをウォッチしたり、自分なりの感覚をもとに新たな投信を検討するなど、お金への関心は持ち続けていました。

 

—— 自分なりの感覚というのは?

 

荒木さん:例えば、2016年のリオデジャネイロオリンピックで、現地へ遠征に行ったときに「あちこちで工事が進んでいて、高いビルが増えているな」と、街の様子から景気が上昇していることを体感し、ブラジルの株や債券が組み込まれた投資信託に注目してみるなど、自分が得た感覚を金融商品を選ぶときの判断材料にしていました。

 

—— そうなのですね。まさか投資家目線で海外視察をされていたとは(笑)。

 

荒木さん:もちろん、バレーボールを最優先ではありましたよ(笑)。でも、ホテルと会場を移動するバスの中からみた街の雰囲気や人々の様子から現地で感じたエネルギーなど、自分の目で見て体感した「勘」みたいなものですね。

 

本格的に投資の勉強を始めたのは、2020年の春です。コロナ禍に入り、東京五輪に向けた合宿が休止し、活動ができない時期で「これまで手つかずだったお金のことにきちんと向き合ってみよう」と考えて、YouTubeや本で勉強。まずは、米国の代表的な株価指数のS&P500に連動するインデックスファンドを買うところからスタート。その後、アメリカ株の購入や、日本の株式投資も始めました。

 

—— 資産運用をするうえで、マイルールはありますか?

 

荒木さん:値動きに一喜一憂したくないので、数十年先を見据えた長期運用で分散投資をモットーにしています。銘柄を選ぶ基準として、アメリカの株ではメガクラスの企業を選んでいます。リスクを分散するために、できるだけ業種も分けるように意識しています。

 

日本株を選ぶときは、株主優待の内容を重視します。私も主婦なので、雑誌などで見る優待生活に興味がありました。ふだんからよく利用する大手流通や外食産業、遠征などの移動で使っている航空会社、ほかには、オリンピックの関連企業など、自分にとって親近感があるもの、応援できる株を買うようにしています。優待はおもに家族と外食するときに使って楽しんでいます。

 

いずれは貯金と投資の割合を半々にするのが目標です。それと私が運用を継続しているもっとも大きな理由は、運用することで世の中で何が起きているかを意識できるメリットを感じているからです。何気ない国内外のニュースでも、その背景やその後どのようになるのだろう、って考えるきっかけになります。そうすることで株式だけでなく、マクロ経済、政治、法律などにも興味をもつようになってきたのも事実です。

「どんな銘柄を買ったの?」と夫婦で投資トークも

—— 夫婦で資産運用について話をしたりしますか?

 

荒木さん:個人事業主で子どももいるので、たとえ自分たちに何があってもお金に困らないようにしたい気持ちはあり、リスクに対する考え方は一致していました。ただ、夫婦間ではお財布は別なので資産運用もお互いに管理しています。「どんな銘柄を買ったの?」とか「いま、あの株が注目らしいよ」と、情報交換をしたりしますね。

 

—— お金の価値観を共有できるのは心強いですね。夫婦の話題も増えそうです。アスリートの世界でも、投資をされる方は増えているのでしょうか?

 

荒木さん:あまりそういった話をする機会がないのでわからないのですが、最近だとNISAなどで投資に関心を持つ人は多いですし、資産運用する人も増えているのではないでしょうか。そもそもお金や投資について話がしづらい風潮自体、おかしいと思っています。アスリートは将来が保証されているわけではなく、ローンも組みづらかったりしますから、お金について積極的に考え、自ら動いて備えておくことは大事かなと思います。

小学生からおこづかいを自分でATMに入金していた

—— そもそも子ども時代から、金銭感覚がしっかりしていたのでしょうか?

 

荒木さん:どうでしょう…。ただ、小学生のころ、毎月、おばあちゃんにもらうおこづかいをそのまま貯金していました。1000円札を握りしめて、自分で農協バンクにもっていくのが毎月のお約束でしたね。

 

—— 子どもが銀行に出向いて貯金するというのは、あまり見ない光景です。窓口の人もびっくりしたでしょうね(笑)。

 

荒木さん:そうですよね(笑)。自分の意思というよりも、母のアドバイスに従って何もわからないままやっていた感じですが、月に1000円でも気づいたら大きな金額になっていて、驚いたことを覚えています。いま思えば、母のおかげで堅実にコツコツと貯めることの大切さを学ぶことができたので、感謝しています。

 

三つ編みをさせてくれる時間は子どもの成長を感じる貴重なひととき

—— 貯金の習慣を身につけさせるための、お母さまなりの「教え」だったわけですね。荒木さん自身も、現在、9歳になるお子さんを持つママですが、お子さんへの「お金教育」を意識されていたりしますか?

 

荒木さん:私自身を振り返ると、子どもに対してお金の大切さを教えるまでには至っていないなぁと、ちょっと反省しています。わが家では、小学生1年生から月500円のおこづかいを始めて、学年が上がるたびに100円アップして、いまは800円を渡しています。ただ、使い方については娘に任せていますね。お友だちとプリクラを撮ったり、ガチャガチャをしたりで、すぐなくなっちゃうみたいですけど。

 

文房具など学校で必要なものは家計のお金で買うけれど、遊びで使うものはおこづかいから買うルールを決めています。「ママ、練り消し買って~」と言われたら「それは遊びで使うものだから、おこづかいからじゃない?」と。そのつど話をしながら、お金の使い方を考えてもらうようにしています。でも、気づくといつのまにか、いろいろと買わされていたりするのですが(笑)。

 

母から学んだお金の大切さが、いまの私をつくり上げてくれたように、私も親として、娘が人生を切り拓いていけるように応援したいです。そのためには、お金について一緒に考えたり、伝えていくことも大事だと思っています。

 

PROFILE 荒木絵里香さん

1983年生まれ、岡山県出身。高校卒業後の2003年に東レアローズに入団。東レに在籍中にイタリアベルガモに移籍。2012年のロンドンオリンピックの代表メンバーとして銅メダルを獲得。2013年に結婚し、翌年出産。半年後に上尾(現・埼玉上尾)で現役復帰。その後、トヨタ車体に移籍。2021年の東京オリンピックを最後に現役引退。2022年、早稲田大学大学院スポーツ科学研究科入学、23年修了。現在、トヨタ車体クインシーズチームコーディネイター、日本オリンピック委員会理事、ママアスリートネットワーク理事など多方面で活躍中。

 

取材・文/西尾英子 画像提供/荒木絵里香