2012年の「キングオブコント」で優勝し、ブレイクを果たしたバイきんぐ。その後、相方・小峠さんだけが売れていきますが、当の西村さんに「嫉妬の感情」はまったくなかったそうです。(全3回中の1回)

不安はあっても嫉妬はなかった

── そもそも相方の小峠さんとは、自動車教習所で見知っていて、その後、お笑い養成所で再会されたとか。珍しいパターンですよね?

 

西村さん:なかなかレアなケースだと思います。教習所では1度も話したことはなかったんですけど。あいつ(小峠)は、モヒカンをピンク色に染めて、ピチピチのデニムにサスペンダーをつけて、足元は革のブーツ。強烈に目立っていたので、僕はよく覚えていたのですが、養成所の面接で再会したときには、たしかあいつから声をかけてきて。今思えば、たいして特徴のない僕のことを、よく覚えていたなって(笑)。

 

── きっとなにか心に響くものがあったのでしょう(笑)。お二人は、2012年の「キングオブコント」で優勝してブレイクされましたが、結成後は15年くらいの下積み期間を経験されているのですね。


西村さん:世に出るまで、随分と時間がかかったので、今の自分は「ボーナスステージ」が続いている状況だと思っています。それまでは、どうすれば売れるのかをずっと考え、紆余曲折の繰り返し。何度か解散の危機もあったけれど、2人で励まし合いながらやってきました。そして、「キングオブコント」で優勝し、ようやく「売れた!」と思ったのもつかの間…それから1年もたたないうちに、相方はピンの仕事が増え、僕だけがテレビに呼ばれなくなってしまったんです。

 

長い下積みを経てついにキングオブコント王者に

── コンビで売れ方に差がでると、ギクシャクしてしまうケースも多いと聞きます。ネガティブな気持ちになることはなかったですか?

 

西村さん:あまりに暇だったので「このまま自分は消えてしまうのでは?」という気持ちはたしかにありました。でも、相方に対する嫉妬心みたいなものは、まるでなかったです。だって、自分の実力不足が原因だって分かっていましたから。引っ込み思案で前に出られない性格もあり、バラエティ番組にうまくハマることができなかった。かたや、うちの相方は、反射神経がよく、瞬発力やスピード感があって、きちんと結果を出せる。「やっぱり小峠は面白いな~」と思いながら、全部の番組を録画して観ていました。

 

── そうなんですね。「ちょっと今は観たくない…」という感情もまったくなく…?

 

西村さん:観ないなんて選択肢はないです。だって、小峠の面白さは、相方である自分が一番よく知っているし、あいつの面白いところは、やっぱり観たいじゃないですか。

相方の踏ん張りにジンとして

── 嬉しそうな表情に相方さんへの愛を感じます(笑)。逆に、小峠さん側が気を使ってしまうということはありましたか?

 

西村さん:全然なかったです(笑)。たとえそういう気持ちがあったとしても、そんなそぶりを見せない性格だって知っていますし。

 

当時、僕のテレビ出演はほとんどなくて、仕事といえばショッピングモールなどの営業くらい。当然、コンビなので2人で行って、1日2ステージくらい同じコントをやるのですが、実は小峠は、フォーマットが決まっていることを繰り返すのがあまり好きではないんです。でも、それをしないと、僕が食いっぱぐれてしまうので、多忙なスケジュールのなか、営業の仕事を断らずに受けていたらしいんです。人づてに聞いた話ですが、それを知ったときはちょっとジンときました。

 

僕の前では、そういうことをいっさい言わないので分かりにくいんですけど、あいつは優しいヤツなんです。

 

小峠さんと現在の事務所に移籍したころ

── さすがに、下積み時代を乗り越えた絆は、だてじゃないですね。

 

西村さん:ただ、相方は相方で、必死だったみたいです。「バイきんぐ」という母屋を守り通すために、どんなきついテレビの仕事も嫌がらずに出ていたと後から知りました。だから、いい意味で僕に構っている暇がなかったんでしょう。

 

とはいえ、僕もテレビに出たいという気持ちはすごくありました。でも、何をどう改善していけば出られるのかがまったく分からず、八方ふさがりの状態。そんなとき、さまぁ〜ずの三村さんから、「せっかく時間があるのなら、いろんなことをして遊んでみたらいいんじゃない?」と言っていただき、吹っきれたんです。

 

その後、いろいろ挑戦するなかで、キャンプに出会いました。あのときの言葉が、僕にとって転機になりましたね。三村さんには、いまだにYouTubeに呼んでもらったりと、お世話になっていて、すごく感謝しています。

芸人になれて自分はものすごく幸せ

── 今年で結成26年。お笑い芸人として長く活動されるなか、どんなときに幸せを感じますか?

 

西村さん:毎日、幸せだなって感じています。人を笑わせる職業ではありますが、実は、誰よりも自分自身が笑う機会が多いし、楽しんでいるんです。お笑い芸人になって以来、笑わなかった日はないくらい。周りの芸人の言葉やリアクションに腹を抱えて笑ったり、自分の失敗すら面白がることで、笑いに変えられる。だから、「自分はものすごく幸せ者だな」と思っています。

 

── どんな状況でも「面白がれる」のは、芸人さんのサガですね。でも、それって人生をラクに生きるスキルでもありますよね。「モノの見方を変える」という。


西村さん:そう思います。たとえば、ちょっと過酷な人生のピンチでも、それをどこか俯瞰でみている自分がいて、「この状況って、実はエピソードトークとしてめちゃくちゃ面白いんじゃないか?」みたいな。そう思うと、ツラさが軽減されたり、楽しくなってきたり。ちょっと「トラブル待ち」みたいなところもあります。それって、あまり他の仕事では考えられないことですよね。

 

熱いお笑い論が繰り広げられる?売れない時代から切磋琢磨してきたハリウッドザコシショウさんと

── キャンプや俳優業など、近年では、活躍の場を広げながら、独自の存在感を放っていらっしゃいます。

 

西村さん:俳優のお仕事も、少しずつやらせていただいているのですが、お芝居は奥が深いと感じています。コントでいろんなキャラクターを演じるときに、表情やしぐさなどを映画やドラマで勉強していました。そうするうちに、自分もお芝居をしてみたいという気持ちがわいてきたのが4年くらい前。

 

今年の春に、ドラマにレギュラー出演させていただいたのですが、そのときにおネエの役柄を演じて、まだそれが抜けていないので、もう少しこのキャラを極めたいなと思っているところです。

 

PROFILE 西村瑞樹さん

お笑い芸人。1977年生まれ、広島県出身。1996年に小峠英二と共にお笑いコンビ・バイきんぐを結成。2012年『キングオブコント』優勝。テレビ新広島で自身初の冠番組『西村キャンプ場』が放送中。9月にバイきんぐ単独ライブ「爆音」を開催。

 

取材・文/西尾英子 画像提供/西村瑞樹