「ヒロシです」のネタでブレイクを遂げた後、紆余曲折を経て、ソロキャンプで再ブレイクした芸人のヒロシさん。ひとりでキャンプを楽しむ自由な姿や、持ち味ともいえる哀愁漂う雰囲気から、どこか達観した感じすら受けますが、実際のところ本人はどのように感じているのでしょうか。(全4回中の3回)
表面的に仲良くする人たちがまったく理解できない
── ヒロシさんといえば、「孤独が似合う」「孤独を愛する人」という印象があります。最近では、ひとりのほうがラク、ゆっくり自分と向き合えるなど、孤独の良さも見直されていますが、「孤独の達人」ヒロシさんとしては、どう見ていますか?
ヒロシさん:別に、孤独を極めているつもりはないんですけどね…。僕の場合、いろいろと考えすぎる性格なので、単純に人といるのが面倒くさいというのが大きいです。もともとソロキャンプも、人とワイワイ戯れるのが煩わしくて、ひとりで始めたわけですし。
とはいえ、まったく仲間がいないわけじゃないですよ。芸人仲間と一緒に焚き火をしたり、キャンプに行くことだってあります。でも、みんなソロ好きで干渉しあわないメンバーだから、集まりたいときは一緒にいるし、そうじゃないときはひとりで過ごす。そんなゆるい距離感が、僕にとっては心地いいんです。
── つきあう相手を厳選しているだけだ、と。
ヒロシさん:そうです。誰とでもつきあうわけじゃなくて、本当に心を許せる相手じゃないと無理なだけ。だって、世の中には、表面的には仲良くしているように見えて、裏で悪口を言いあったり、足をひっぱるような人たちもいるじゃないですか。女子のグループとか、たまにそういうのを見ますしね。でも、表向きは平気なふりをして、友達づきあいを続けていたりする。あれって傷ついていないのかなあ…いや、そんなわけないですよね。
── それでも、独りぼっちよりはマシ、誰かといるほうが安心だと思う人もいるのでしょうね。ひとりでいることを選択するのは、心が強くないと難しいですし。
ヒロシさん:う~ん、それでも、誰でもいいから孤独を埋めてほしいとは思わないなあ。
生き方の多様化が認められる今が心地いい
── 場の雰囲気を感じ取る力が強かったり、人の心に敏感すぎたりすると、気疲れしてしまいますよね。
ヒロシさん:いろいろと感じやすいことは確かですね。しかもそれが、あながち間違いじゃなかったりしますから。もちろん、誰かと一緒にいるのが楽しいときもあるし、必要なときはそうしますが、いろいろ我慢をする部分が多くて、それが苦痛だし、疲れちゃうんです。だから、ひとりのほうが心地よいと思うタイプの人間なんでしょうね。孤独だとか、寂しいと感じることは、今はほとんどなくなりました。
── 以前はあったのでしょうか?
ヒロシさん:もっと若いころはありました。正月とか大型連休になると、「今ごろ同世代の人たちは、家族に囲まれて楽しく過ごしているんだろうな」と、わが身を振り返って空しくなることも。
── 独身の身としてはすごく共感します…。ソロ生活には慣れているはずなのに、大型連休で家族連れが潮干狩りをしている場面をニュースで見ると、反射的にテレビ消しちゃったり(笑)。
ヒロシさん:その感覚、わかりますよ。僕も昔は、クリスマスとか気が狂いそうでしたからね。別にクリスマスなんか全然祝いたいわけじゃないけど、世間の「圧」がすごかったじゃないですか。特に、僕らの世代は、「クリスマスは恋人と過ごすもの」とか、「大みそかは家族で紅白を観る」とか、そういう無言のルールみたいなものがありましたし。もっとさかのぼれば、子どものころのバレンタインデーなんて、学校に行くのが嫌で仕方なかった。「なんでこんな拷問みたいな日があるんだ!」と憤っていました。
── 確かに“モテ”が見える化されるという、ある意味、残酷なイベントでもありますね。
ヒロシさん:そうですよ。でも今は、そうした国民総出のイベントみたいなものを気にしない人も多いし、人々の生き方も多様化していて、自分の好きなように過ごせばいいという風潮になってきましたよね。「こうあるべき」というのが昔と比べて薄れて、僕みたいに暗い人でも受け入れてもらえる世の中になった。そう思うと、昔よりもずいぶん生きやすくなっている気がするし、僕自身も今の生活は、自分が求める心地よさに近づいていると感じています。
結婚願望はまったくなくなった…その訳は
── 心地よさを感じられる暮らしは気持ちも満たされますよね。ちなみに、ヒロシさんは昔から「結婚願望がない」とおっしゃっています。今も、その気持ちは変わりませんか?
ヒロシさん:むしろまったくなくなりました。というより、お笑いを始めた時点で、「どうせ結婚はできないだろう」とあきらめていましたから。
──「あきらめていた」というのはなぜですか?
ヒロシさん:だって、そんな不安定な人生に、誰かを巻きこめないですよ。自分が生きているだけでも精一杯なのに、相手を一生幸せにできる確信なんて、持てない。ましてや、子どもを養い、その人生を自分が背負えるのか?と考えだすと、とてもじゃないけれど「ああ、無理だな」って。
── でも、結婚は大人同士がするものだから、何もそこまで背負いこまなくてもいい気が…。責任感が強すぎるタイプなのでしょうか。
ヒロシさん:自分で言うのもなんですが、そうなのかもしれません。仮に、奥さんはいいとしても、この厳しい時代を自分の子どもが生き抜いていけるのだろうか…とか、いろいろと考えてしまいますね。僕の子どもですから、きっとこの変な性格を色濃く受け継いで、こだわりの強い難しい子になるんだろうし、そうなると、学校でいじめられたりしないだろうかとか、どうせモテないんだろうなあとか…。
── でも、意外と人気者になるかもしれませんし、奥さんの性格が色濃く出る可能性に期待しましょうよ!
ヒロシさん:いや、絶対に僕の遺伝子のほうが強烈ですって。それに、そんなにうまくマイルドにはならない気がする…。でも、こういうことを悶々と考えすぎて、今に至るわけです。まあ、今が幸せなので、このままでいいかなと思っていますね。
PROFILE ヒロシさん
1972年生まれ。熊本県出身。2004年頃「ヒロシです」のネタでブレイク。2015年「ヒロシちゃんねる」を開設し、YouTuberとしての活動も開始。BS-TBS『ヒロシのぼっちキャンプSeason7』(毎週水曜よる10:00)、熊本朝日放送『ヒロシのひとりキャンプのすすめ』(毎週金曜よる0:15)などのレギュラーがある。6月30日には自身のアウトドアブランド『NO.164』より『 NO.164 野外洋袴』(やがいようばかま)〜ヒロシ特別モデル〜を発売!
取材・文/西尾英子 写真提供/ヒロシ