人気駅弁「いかめし」を販売している「いかめし阿部商店」(明治36年創業)。今井麻椰さんは、家業の「いかめし3代目社長」と「フリーアナウンサー」の、二足のわらじを履いて活動しています。ふたつの仕事をはじめた経緯や働き方について聞きました。

人前に立つことは苦手だったはずが…

── まず、アナウンサーを目指した経緯についてお聞かせください。 

 

今井さん:大学卒業後、カナダに留学中にアメリカで家業の手伝いを頼まれて、いかめしの実演販売をしたことがきっかけです。2週間の実演販売でしたが、何人かのお客さんが「あなたは伝えるのがうまいから、人前でしゃべる仕事をしたほうがいい」と言ってくれたんです。そこからアナウンサーの仕事に興味を持ちました。

 

── そもそも、アメリカでは文化や言葉も違うため、販売も大変だったのではないでしょうか?

 

今井さん:最初はまったく売れなくて大変でした。いかめしを初めて見るアメリカ人も多くて、買う人がほとんどいなかったんです。試行錯誤をした結果、いかめしを小さく切って試食品を渡すことに。「照り焼きソースに似ている」「餅みたいな触感でおいしいよ」とお店を訪れた人に声を掛けてみると、お客さんに興味を持ってもらえました。催事が終わる頃には、いかめしがこれまでにないほど売れて、自分でもびっくりしましたね。

 

その実演販売で、何人ものお客さんが人前で話す仕事を勧めてくれたことがきっかけで、人に何かを伝えるのって楽しいなって思ったんです。

 

フリーアナウンサーとして、バスケットボールのBリーグのリポートも担当している今井さん

── 人前で話したり、伝えたりするのが好きだったのでしょうか?

 

今井さん:いえ、どちらかというと幼い時は人前に立つことは苦手でした。でもアメリカでの体験が大きかったんですよね。

 

── それから、アナウンサーになるために、どのような行動を起こしたんですか?

 

今井さん:ネットで調べてみると、日本でフジテレビのアナウンサースクールの講習が開催されることがわかりました。留学中でしたが、急遽、帰国することに。ありがたいことにBSフジの学生キャスターのオーディションに合格したので、留学を途中でストップして、数か月アナウンサーの研修を受けることにしたんです。

 

研修では、現役アナウンサーが発声の仕方から実際のニュース原稿を使って読み方を指導してくださったり、週1回学生キャスターとして、本番の生放送で原稿も読ませていただくこともできました。

 

もちろん失敗もあります。生放送中に速報が入ったことがあって、私が天気予報の原稿を読み終わる前に、放送が終わってしまったんです。スタッフの方から激怒されたことも。ひとつずつ経験を積ませてもらっています。

 

── アナウンサーの研修が終わった後は、留学先のカナダには戻らず、日本で就職活動をしたのでしょうか。

 

今井さん:アナウンサーになる夢が見つかったので、日本でアナウンサーの就職活動をしました。ですが、年齢が就活生より3年も年上だったこともあって、キー局の採用試験はわずかの局しか受けることができませんでした。

 

でも、2016年にバスケットボールのBリーグが開幕することになって、Bリーグ応援番組のリポーターを募集していたんです。オーディションを受けて、アシスタントMCとして採用されました。

いかめしを継ぐことになるとは

この照り!見るだけでお腹が空きそう

── フリーのアナウンサーとして活動しながら、家業のいかめしの3代目の社長にもなりました。

 

今井さん:日本テレビのバラエティー番組でいかめしの取材を受けたとき「いかめし屋の跡取り娘」として、テレビに出て欲しいとテレビ局から声をかけてもらったんです。父から事業を受け継ぐことはまだ真剣に考えていませんでしたが、まずは出演してみることにしました。

 

出演後はテレビの影響が大きかったです。「いかめし」の催事販売などに手伝いに行くと、「家業を継いだんだね」と言われることが増えてしまって。すぐに継ぐことは考えていなかったものの、親の年齢的にも、ちょうど交代の時期だったのかもしれません。また、子どもの頃からいかめしを見て育ってきたので、ここで廃れてしまうことはできないと思ったんです。

 

── フリーのアナウンサーと、いかめし三代目社長。普段はどのように2つの仕事を両立しているのでしょうか?

 

今井さん:日替わりで仕事も変わってきます。たとえば、月曜日にいかめしの催事で東京、火曜日は大阪。水曜日と木曜日はフリーアナウンサーとしての仕事をする。金曜日は、催事でまた別のところに行く、という感じです。アナウンサーの仕事の日も時間を見つけては、いかめしの職人さんたちのシフトを組んだり、できることを進めています。

 

正直、2つの仕事をかけもちでやるのは大変です。「どちらか一方に専念したら?」と言われることもあります。でも、「いかめし」の仕事は、家業としても愛着があるし、歴史もあります。一方、フリーアナウンサーの仕事は、初めて自分でやりたいと思えた仕事です。どちらも私にとってはとても大切で、いかめしとバスケのリポーター、両方あるから頑張れるのだと思います。

 

PROFILE 今井麻椰さん

北海道名物駅弁「いかめし阿部商店」の三代目、フリーアナウンサー。慶應義塾大学卒業後、カナダに留学。2016年から「バスケットLIVE」のリポーター、2020年5月に「いかめし阿部商店」に就任。

 

取材・文/間野由利子