義母は物に対する執着が独特であっさりしています。私が義父の茶碗を誤って割ってしまったときの反応は驚くべきものでした。
通算4個目の結婚指輪
義母の結婚指輪は、現在薬指にはまっているもので通算4個目。といっても離婚再婚を繰り返しているわけではありません。すべて義父との結婚指輪なのですが、義母いわく「いつの間にかなくなっちゃってるのよねぇ」とのこと。
そう、金婚式もとうに過ぎた長い結婚生活とはいえ、義母はその間に3回、結婚指輪をなくしているのです。洗い物をするときに邪魔だからとちょっと外した隙になくしたり、温泉に入るときに外してなくしたり…ということなのですが、どう考えても多すぎやしないか、と思うのです。そしてなくすたび、「おじいちゃん(義父)にバレたら叱られて面倒臭いから」という理由で、似たデザインのリングを買い直しているそうなのです。
といっても、義父にもずっと内緒にしているわけでもなく、ほとぼりが冷めた頃に「指輪またなくしちゃったから買い替えたわ〜」と悪気もなく打ち明け、呆れられてはいるのですが….。
義母は同様に、財布や携帯電話、カバンをなくしたと騒いでいることも何度もあります。財布に関しては、クレジットカード会社に電話をして再発行の手続きをしたり、ひと通り大騒ぎをしたところで出てくる、というパターンが過去数回。ピアスなどの貴金属も、「いつの間にかどこか吹っ飛んでいっちゃうの」とのこと。それがさほど惜しそうでもなく、あっけらかんとしているのが義母の豪胆なところです。
義父の茶碗を割ってしまった
そんな義母の性格、同居嫁である私としては大変ありがたい面もあります。同居を始めてから、私が義母お気に入りの食器を割ってしまったり、飼い猫が粗相をして高級布団をダメにしてしまったりという事件が何度かありましたが、そのたびに「壊れたってことは寿命ね!」とあっさり許してもらい救われました。
もう壊れてしまったんだから、誰を責めても仕方ない、という態度、自分だけでなく他人にも突き通せる義母はすごいな、と改めて思います。
数年前、食器洗いをしていた私は、うっかり手を滑らせて義父の茶碗を割ってしまいました。その茶碗は、義母が夫婦茶碗として気に入って買ってきたもののひとつです。
悪いことをしてしまったと反省して、そばにいた義母に打ち明け、代わりの茶碗を買ってくると謝りました。義母は「気にしなくていいわよ!これペアのお茶碗だからまた似たようなの買ってくるわ!」と言ってくれたのです。
…それはいいのですが、なんと、今割れたばかりの義父の茶碗と、割れていない義母の揃いの茶碗を一緒に新聞紙に包んで割れ物の不燃ゴミ袋に突っ込むのです。
えっ、割れてないほうは捨てなくてもいいんじゃないですか?と驚いた私に義母は「だってペアのものが片方だけ残ってても気持ち悪いじゃない!」とあっけらかんとしています。そう、わが家の義母は、総じて物にあまり執着がないのです…。
思い出のある品物への執着は
そんな義母でも、思い出のある品物は大切に保管しています。旅先のお土産や、お祝いにもらったプレゼントなどなど…年を重ねるにつれ、どんどん増えていくのです。
年に一度も使うことがないティーセットや、数十年前の外国土産、そして私や孫たちが贈った誕生日プレゼント(義母自身はあまり気に入っていないためホコリをかぶっている)などなど…。
これ取っておく必要ないんじゃない?と内心うんざりすることも正直あるのですが、しかしよく考えてみると、それを義母に伝えてしまったら、執着の薄い義母のことです。「あらそうね!じゃあ捨てるわ!」とあっさり言われてしまいそうで…もしそうなったら、それはそれで寂しいものです。
少なくとも今のところは、義母が自発的に言い出さない限り、思い出の品たちはそっとしておこう…と思っております。
文/甘木サカヱ イラスト/ホリナルミ