福岡放送のアナウンサーの財津ひろみさん。1歳の双子を育てながら、仕事に子育てに奮闘中ですが、出産前後でどんな気持ちの変化があったのでしょうか(前編)。
泣き続ける2人をおんぶに抱っこするも
── 35歳で結婚、37歳で出産されました。出産前は、どのようにお仕事をされていたのでしょうか。
財津さん:出産前は現場に出て取材して、夕方のニュースで取材した内容を伝えるフィールドキャスターの業務を主に担当していました。妊娠してからは、取材のアポ取りや段取りの調整など、主に社内でできる業務を担当するようになりましたね。
── お子さんは双子だそうですね。妊娠中はいかがでしたか?
財津さん:初めての妊娠、しかも双子ということで、なにかと大変でした。子ども2人合わせて5キロあり、羊水など含めたら12キロ。夜中に何度もトイレに行きたくなるため熟睡できないし、腹囲が大きすぎて1mくらいあるから足元も見えないんです。子どもが動くたびにお腹のあちこちを蹴られて、常に気持ちが悪いですし。妊娠7か月まで働きましたが、産休に入ってからは、日に日に重くなるお腹と耐え難い腰痛で何をしていても苦しい毎日でした。
── 出産後は、さらに大変そうです。
財津さん:子どもが生まれたら生まれたで、今度は毎日休みなく双子のお世話が続きます。特に、精神的にも肉体的にも苦しかったのが新生児期です。いつも2人同時にギャンギャン泣きますが、1人ずつしかだっこや授乳、おむつ替えができず、もう1人は泣きっぱなし。やっと1人を落ち着かせて、2人目の世話をしようと布団に1人目を置くとその子が再び泣き出し、終わりがありません。昼夜を問わず、かわりばんこにずっと抱っこをし続けていて、両腕がお箸を持てないほどのひどい腱鞘炎になりましたし、1~2時間しか寝られない日々が続きました。
さらに双子のうち1人は繊細なタイプで、ちょっとしたことですぐに目を覚まして泣き出すんです。「泣いていても放っておけば寝るよ」といってくれる人もいましたが、双子の場合はそうもいかず。1人泣くと、もう1人も起きて泣き始めて、そうなると子ども2人をおんぶに抱っこで1時間ぐらい子守唄を歌いながら、ひたすら廊下を歩き続けたこともあります。
育休中はまだよかったんですが、子どもが8か月のときに仕事復帰してからが、思っていたよりも大変でした。あるときは、子どもが夜中の2時ぐらいからグズり始めて、朝方の4時、遅いときは5時半まで続くんです。ちょっと寝たと思ったら、もう出社だというときもありました。
「もっと働けるのに」と思ったけれど
── 出産前と出産後、働き方は変わりましたか?
財津さん:変わりました。復帰後は「レギュラー」といえる番組はなく、朝8時45分に出社し、夕方4時45分に退社する生活になりました。
本当は、復帰したら出産前のように好きな仕事を頑張りたいと思っていたんです。上司にも「延長保育ができるので、週何回かは夜7時まで働けます」と伝えました。
しかし、実際に働きだすと保育園からの呼び出しが想像以上に多かった。電話を取り次いだ報道部の人が「また保育園から電話だよ」というくらい、よくかかってきました。1人が熱を出して迎えに行き、体調が戻ってやっと保育園に行けると思ったら、今度はもう1人の子が体調を崩して保育園から呼び出しがかかることも。
── 頑張りたい気持ちはあっても、子どもを優先させなければいけないときもありますね。
財津さん:今はこれでよかったのかもしれないと思います。私の場合、ニュース業務は午前中に終わり、午後は自分のペースで仕事を進められます。そのため保育園などから呼び出しがあると、早退するとき申し訳ないと思いつつも、他の人にはそこまで迷惑かけずに済んだのではないかと思います。
育児と両立するなかで仕事への考え方にも変化が
── 最近は夜遅くなる仕事もあるそうですね。
財津さん:今は週1回、通常の業務のひとつとして、弊社アナウンススクールの講師を担当しています。アナウンススクールがある日は、仕事のスタートが遅く、夜10時までの勤務になるんです。その日は、ベビーシッターさんにお願いして子どもたちを自宅でみていてもらいます。
ベビーシッターはお金がかかるイメージがあるかもしれませんが、会社にはベビーシッターサービスを利用できる制度があり、金銭的にも助かっています。というのも、会社には福利厚生制度があり、「企業主導型内閣府ベビーシッター利用支援事業(※)」になっているため、ベビーシッター割引券が利用できるんですよ。
最初は、ベビーシッターとはいえ、知らない人に子どもを預けることに抵抗がありました。でも、毎回同じ方が来てくれるため、子どももよくなついていますね。子育ての悩みがあるときは、ベテランの方ゆえに相談に乗ってもらうこともあり、とても頼もしく感じています。
── どんなことを相談されたんでしょうか?
財津さん:子どもが1歳過ぎても哺乳瓶でミルクを飲んでいたんですが、そのままでいいのか聞いてみると、「哺乳瓶断ちをしたほうが夜ぐっすり眠るようになりますよ」とアドバイスをいただきました。実際に哺乳瓶を使うのをやめてみたら、本当に朝まで寝てくれるようになり、とても助かりました。
── 改めて、出産前と出産後、仕事への意識はどう変化しましたか?
財津さん:今までは、仕事でも育児でも常に100点満点を目指そうとしていました。仕事でいえば、アナウンサーとしてレギュラー番組をもってテレビに映ることが自分にとってのベスト。母親としては、子どもの育児に全力を尽くすこと。どちらも大切で手を抜きたくなかったんです。でも、実際に子どもを育てながら働くと、保育園からの呼び出しなども頻繁にあります。自分だけが頑張ればなんとかなるというわけではなくなってきたんです。
そう考えたとき、アナウンサーとしてテレビの前に立つことだけが自分にとってのベストではない。講師として後輩育成に携わったり、毎日携わる業務すべてが大事なことだったんだと、考えの幅も広がりました。
仕事に余裕ができた分、子どもの成長を楽しむ余裕も出てきました。子どもはあっという間に大きくなってしまうので、今一緒にいる時間を大事にしたいなと思います。
※「企業主導型内閣府ベビーシッター利用支援事業」の承認事業主となっている企業が従業員にベビーシッター割引券を配布し、従業員がベビーシッターを利用した際に使用できる券。1日(回)対象児童1人につき最大4,400円分、多胎児の場合は2人で最大9,000円が割引。
PROFILE 財津ひろみさん
福岡県久留米市出身。福岡放送のアナウンサー。現在1歳7か月になる男の子と女の子の双子育児に奮闘中。四季や自然を感じる旅行や温泉にでかけ、土地の魅力を知ることが好き。
取材・文/間野由利子