映画『長ぐつをはいたネコと9つの命』(公開中)で主人公プスの声を担当した山本耕史さん。プスのように「生き方を変えたい」と立ち止まった経験はないけれど、結婚して「自然と生き方が変わった」と感じることはあるそうです。
「合わせたいと思う人」結婚で変わった生き方
── 物心つく前から芸能界でお仕事をしてきた山本さん。プスのように生き方を変えようと思ったことはありますか?
山本さん:生き方を変えようと思ったことはないですね。でも結婚したら自然と大きく変わりました。大切にするものが変わったというのかな。仕事でもプライベートでも自分に合う人を探していたような気がします。
結婚してから思ったのは、大切なのは自分に合う人じゃなく、自分が合わせたいと思う人なんだって。それこそプスのように虚勢を張って、あんまり飲みたくないときにも「飲まなきゃ」って飲み歩いてて(笑)。もちろん、楽しくワイワイ飲むのが好きではあったけれど、今、なんであんなに毎晩毎晩、睡眠時間削ってまでやっていたのかなって。独身のままあの生活をしていたら、今のような40代は迎えられていなかったと思います。寝ないし、浴びるように飲んでいたし。
22時待ち合わせは「寝てるから」と断るように
── しかも、作品にもずっと出続けて…。
山本さん:そんなに無理してるのに、仕事もちゃんとやってるっていうのが、ちょっとかっこいいと思っていた時代もありました。
── 30代くらいですかね?
山本さん:30代前半かな。「新撰組!」をやったあたりから10年くらいはそんな感じでしたね。結婚してからそういう自分から解放された気がします。コロナ禍も飲みに出て行かない理由のひとつだけど、今、普通に食事の約束で「19時待ち合わせ」と言われると、遅く感じます。17時でも、なんなら16時半でもいい。たまに「22時で」とか言われると「確実に寝てるから」と断るようになりました。結婚前なら夜中の3時に仕事が終わってから飲みに行くのも普通だったのに。まあ、行けば楽しいのは分かっているけれど、今はほとんど行くことはないですね。なんであんなことを毎日やっていたのか…、体力的にはしんどいときもあったはずなのに。若さなのか虚勢なのか…。
子どもよりも奥さんのほうを観察してるかも
── 結婚前は自分に合う人を探していたということですが、なにかこだわりというか理想があったのでしょうか?
山本さん:結婚して思ったのは、自分は意外とこだわりがなかったということ。相手が合わせたいと思う人だからという理由もあるけれど、例えば今、知らない間に洋服が捨てられていても「まあ、いいや」って思えるんです。自分はすごくこだわりがあるタイプで、洋服ひとつ捨てるのでも本当はいろいろ思うところがあると思っていたのに、全くそんなふうに感じなくて。「確かに着てないし」ってすんなり受け入れちゃう(笑)。もちろん、最初歯車が合うまではそれなりに時間がかかったけれど、だんだん「これも、いいかな」「まあ、そうだよね」と思えるようになっていきました。
自分が合わせられるところは合わせなきゃと思ったし、多分、合わせたいと思う自分もいて。今でもお互いにそういう部分はあると思います。自然に家族になれるというけれど、僕の場合は「親しき中にも礼儀あり」じゃないけれど、お互いに気遣っていたいし、ちゃんと相手を見ていたいと思っています。相手を見なくなったら居心地いいとは言えない気がするんですよね。
── 気遣うというのは具体的に?
山本さん:本当にちょっとしたことです。「今、機嫌いいかな?」とか「今忙しいかな?」とか。子どもよりも奥さんのほうをよく観察しているかもしれません。友達もそうだけど、奥さんはもともと他人。血が繋がっていないからこその、気遣いって必要だと思うんです。子どもは分身みたいなものだから、楽しいものを見るような目で観察しちゃうけれど、奥さんはそうじゃない。でも、そんな二人が分身を通じて分かち合う。家族って本当おもしろいなって思います。
外よりも家が十分に楽しい
── 結婚で自分は変わったと感じている山本さんについて、夜な夜な飲み歩いていた友達はどのようにおっしゃっていますか?
山本さん:周りもみんな年齢を重ねて、結婚もして。「なんであんなに外に飲みに出ていたのかな?」って話すことはよくあります。多分、自分が楽しいことをしたい、自分が生き生きとしていたかったんだと思います。今も自分が楽しみたいという気持ちはあるけれど、家で十分に楽しいから、外に楽しさを求めに行かなくてよくなった気がします。
── 子どもの頃から芸能の世界に身をおく山本さん。ひとつのことを長く続けるなかで、悩みや壁にぶつかったときの解決方法は?
山本さん:基本的にはあまり悩まないタイプです。例えば仕事で演出家の人と意見が違ったときは、自分の意見はわりとハッキリ言うし、話し合いもよくします。経験上、「違うな?」と思ったことでも、一度やってみると意外としっくりくることもあったりするので、相手の意見もちゃんと聞いて、受け入れた上で意見を言うようにしています。でも自分のなかで「これ違うな」と思ったら、わりとすぐに解決する方向へ向かうタイプです。あとは「まあいいや精神」を大切にしています。これは本当に大事。諦めるのではなく「まあ、いいや」と思える気持ち、柔軟さは本当に大事だと思っています。
PROFILE 山本耕史さん
俳優、歌手。1976年生まれ、東京都出身。近年の出演映画は『劇場版 きのう何食べた?』(21)、『KAPPEI カッペイ』(22)、『シン・ウルトラマン』(22)、『鋼の錬金術師』シリーズなど。「新撰組!」「鎌倉殿の13人」など大河ドラマにも多数出演。
取材・文/タナカシノブ スタイリスト/笠井時夢 ヘアメイク/西岡和彦 (PARADISO)