老いは訪れます。自虐ネタで笑い話にしても、他人から言われると嫌な気持ちになるもの。夫婦ならなおさら。からかう夫に、強烈な一撃を浴びせた長女に喝采が送られた実話です。

 

美容院に行くと「若返った」のひと言にイラッ

「つい最近、50歳になりました。更年期で体に気持ちがついていかない感じもあって、どうしても気持ちも落ち気味なんですよね」

 

そう話すのは、ヒナコさん(50歳、仮名=以下同)です。結婚して17年たつ夫は5歳年下で、2人の子どもがいます。

 

「夫とは元同僚です。彼が転職しようか迷っていたとき相談にのって親しくなりました。それから食事をしたり飲みに行ったり、新しい職場のことでグチを聞いたり。でも、私は結婚するつもりなんてなかったんですよ。年下は苦手だったし」

 

ところが彼は積極的でした。「年齢なんて関係ない」「あなたを大切にする」と、力強く言ってくれたそう。愛されての結婚でしたが、最近では子どもを巻き込んで、「ママは年だから」とからかうようになりました。

 

「最初は、更年期で気持ちが上がらない私を見かねて、オープンに冗談にしてしまえばいいと思ったようです。私が美容院に行ってくると『白髪がなくなって若返った』と言ったり。それも笑えなかったけど、どんどん“冗談のつもり”がエスカレートしてきて…」

会社の同僚女性と妻を比較する夫

先日も、「よく見えない」と眼科に行ったら老眼が判明。40代でも老眼になっている同僚がいるので、しかたがないとあきらめてメガネを作ったそうです。

 

「そうしたら夫は、『ママは老眼だって〜』とニヤニヤ。高校生の娘はスルーしてくれましたが、小学生の息子は『ママ、おばあちゃんになっちゃうの?』と。誰だって年をとるのよと言いましたが、夫の顔がなんともシャクで」

 

夫は45歳。いわゆる「男盛り」というのでしょうか、仕事も脂がのってバリバリしているようで、復活してきた飲み会にも積極的に参加しています。

 

「若い女性と同席することも多いんでしょうね。先日など帰宅するなり私の顔をまじまじと見て、『目の周りと首筋のシワがすごくない?』って。私が気にしていることをわざわざ言うなんてと思わず話すと、『年齢なんて気にしてないし、シワなんか誰でもできるよ』って。それなら、指摘しなくてもいいじゃない?と言い返して険悪な雰囲気に」

 

通りすがりに「少し太ったよね」と、お腹をつまんできたこともあるそうです。

話を聞いていた「娘のゴン攻め」に夫は猛省

ヒナコさんは、夫だって年をとってきていると思っています。

 

「知り合ったころボリュームのあった髪は額のあたりが危なくなってきているけど、髪がヤバいなんて言ったことはありません。以前、夫が痔の手術をしたときも、子どもたちの手前、かっこ悪いだろうからと、痔のことは伏せたんです。夫はそういう気づかいさえできない」

 

いつも“老けた”、“年取った”と言われたら、自分でもそんな気分になっていくもの。ヒナコさんも、夫からの言葉がボディブローのように効いてきたと感じていました。

 

「つい先日、娘と一緒に家でストレッチをしていたら、夫が『ママ、そんなことしても若返らないよ』って。娘とは柔軟さが違いますからね、私もわかっていたんです。それでも夫にはムカッ。すると娘が突然、『ママをバカにして楽しいの?パパはママを好きになって結婚したんじゃないの?』と詰め寄ったんです。『ママ、こんな人とは離婚しちゃえば』と。夫はあわてて『冗談だよ、冗談。ママが落ち込んでいるから励まそうと思って』と。すると娘が『そんなの励ましじゃない、完全にモラハラで不愉快よ』と、言い残して自室に行きました。夫は呆然としていましたね」

 

その後、夫はヒナコさんに謝ってきたそう。同時に娘にも「意図していなかったけど、悪いことを言ってしまった。きみのおかげだよ」と感謝していました。

 

娘の言葉の効果は絶大で、いまも夫は“娘を恐れているみたい”とヒナコさんは晴れやかな笑顔を見せました。同時にヒナコさんの更年期症状も飛躍的によくなっているそうです。


文/亀山早苗 イラスト/前山三都里