アイドルグループ「でんぱ組.inc」のメンバーとして活躍し、現在は独立してマルチに活動している最上もがさん。4月3日には自身の半生を綴った初のフォトエッセイ『も学 34年もがいて辿り着いた最上の人生』(KADOKAWA)を上梓。自身のセクシャリティを自覚した時期、心身のバランスを崩してグループ脱退に至るまでの経緯、シングルマザーとして母娘で生きていく決意などを綴っています。

 

なぜエッセイを通じて、過去の紆余曲折に向き合おうとしたのでしょうか。エッセイを書こうと思った理由やそこに込めた思いについて、最上さんにお話を伺いました。(全5回中の5回)

 

誰かを通した“最上もが像”ではなく「自分の言葉で半生をたどりたい」

── 4月3日に初のフォトエッセイ『も学 34年もがいて辿り着いた最上の人生』を上梓されました。なぜこのタイミングでエッセイを書こうと思ったのでしょうか?

 

最上さん:アイドル時代からブログをよく書いていて、そこでいろんな人たちの悩みに答えていたのもあり、ブログ本を出さないかというお誘いを受けていたんです。ただ、アイドル時代はまとまった時間も忙しくて取れないし、自分からやりたいとはなかなか言えませんでした。

 

脱退してから1年後にもまた、エッセイを出そうという話が出たのですが、そのときはうつの症状がかなり酷い時期だったので、やる気がある日とない日の波が激しかったんです。ひとまずライターさんにインタビュー形式でお話しして、エッセイの土台は作ったのですが、やはり誰かを通した“最上もが像”ではなく、自分の言葉で書きたいという思いがありました。

 

最上もがさん
アイドル時代から自身のSNSを通じてさまざまな物事への価値観を伝えてきた最上さん

しばらくお休みしていたのですが、2月に写真集《MOGA STYLE》を出版したこともあり、せっかくなのでエッセイも出しましょうとまた動き出しまして。もう少し早く出していたほうがよかったのでは、との気持ちもあるのですが、その当時のメンタルでは書けていなかったと思います。今だからこそ振り返って書けることをまとめていきました。

 

── エッセイはどのように書き進めていったのでしょう?

 

最上さん:本当は一度エッセイをやめて、詩集のようなものにしようかなとも考えたんです。いわゆるTwitterの投稿に近い形で、140字の文章に自分の価値観をまとめて、一冊の本にするのもよいのかなと。ただ、もう少し濃い内容のものを作ってほしいと出版社さんからの要望があり、「どうしてその価値観に至ったのだろう」というのをエッセイで広げていくことにしました。

 

私自身は自分の価値観に疑問を持たずに生活しているのですが、その価値観に疑問を持つ人ももちろんいるはずなので、「じゃあなんでこう思ったのか?」というのをひとつずつ深掘りしてまとめていった感じですね。

 

最上もがさん
エッセイを書き進める過程で対人関係の悩みやコンプレックス、うつ病との向き合い方などを改めて振り返った

バイセクシュアルだと自覚した時期を振り返る

── そもそもなぜご自身の半生をエッセイに綴ろうと思ったのでしょうか?

 

最上さん:自分の人生を一冊の本にまとめたかったというのが大きな理由ですね。私は自分が特別な人間だとは思っていなくて、すごく平凡だし、他の人ができることも上手くできなくて…。ただ、自分の外見や内面に自信がなくて怖気づいていても、いざやらなきゃいけない場面に遭遇したら何が何でも頑張らなきゃいけないんですよね。

 

私はそんな状況を何度も経験してできるようになったから、みんなも諦めずに頑張ればできるようになるというのをブログの悩み相談を通じて伝えてきました。だから自分の思考を一冊の本にギュッと詰め込むことで、読んでくれた人の答え合わせに近づけるんじゃないかと思ったんです。

 

もうひとつは自分のためですね。日記ってすごくいいものだと思うんですけれど、私は三日坊主になってしまうんですよね(笑)。今までの記録とともに、34歳の私が考えていたことを書き留めて、20年後とかに読み返したいなと思いました。

 

最上もがさん
「同じような悩みを抱える人の"答え合わせ”に近づければ」と語る最上さん

── エッセイはご自身の半生をたどりながら、それぞれの地点で抱いていた思考を振り返るという形を取っているそうですね。

 

最上さん:そうですね。たとえば私は恋愛に関して異性だけが対象ではない“バイセクシュアル”の部類ではあるのですが、「それっていつの段階からだったんだろう?」というのも改めて考えました。自分の性別が女であるという自覚はあるのですが、初めて生理がきたり、胸が大きくなってきたりしたときにすごく不快感を感じた記憶もあるんです。

 

今はさまざまな性の選択肢があることも広まってきていますよね。自分の性別が女であるという自覚はあるのですが、そうあるべきと教わっていたからにしか過ぎないのかなと思います。振り返ると疑問に思う価値観についても、当時を思い出しながら書きました。

 

── 娘さんとの生活もあるなかで、執筆はスムーズに進みましたか?

 

最上さん:もう全然(笑)。よくひとりっ子はひとり遊びが得意になると聞いていたんですけれど、娘は私と遊びたいという気持ちがすごく強いんです。となると、娘が起きている間はずっと一緒に過ごしているので、なかなか進めることはできなくて。

 

娘を寝かせた瞬間にパソコンを開いて、夜ご飯を食べながら書き進めていました。あとは仕事の移動中にスマホで修正していましたね。

 

最上もがさん
間もなく2歳のこもちゃんはお母さん大好き!最上さんは子育ての合間を縫って執筆を進めていたのだそう(写真提供/本人)

── エッセイはどんな方たちに読んでもらいたいと思っていますか?

 

最上さん:単純に最上もがという人間が気になる人はもちろん、自分の性に悩みを抱えている方やHSP(ハイリー・センシティブ・パーソン)や心の病を抱えている方、生きるのがしんどいと感じている方にも読んでもらいたいです。

 

私もすごく苦しい思いを抱えながら生きてきたので、自分なりの「こうしたら気持ちが前向きになった」ということも書いています。とはいえ、今も病を抱えているし、ずっと前向きでいられないときもあります。これを読んで悩みが解決するかは分からないのですが、何かしら人生に悩みを抱えている人に読んでもらえたらうれしいですね。

 

「誰かを救う」っていうのはすごくおこがましい行為だと思っていて、個人的に求めていないのにアドバイスをしてくる人ってすごく苦手なんです。ただ自分から選んで参考にするのはすごく大切だと思っていて。誰かがこの本を選んで手に取ったときに、何か得られることがあればいいなと思って作りました。

 

最上もがさん
今後は執筆系の仕事や商品プロデュースなど幅広く挑戦したいのだそう!

今後は表舞台の仕事と家でできる仕事の両立を目指す

── 現在は子育てにお忙しいことかと思いますが、今後最上さん自身が取り組んでいきたいことはありますか?

 

最上さん:正直、表に出る仕事はビジュアルを重視されるので、衰えたら「オワコン」って言われちゃいますよね。私自身、そういう年齢に差し掛かっているし、表に出るような仕事は少しずつ世代交代していくと思うんです。これからは自分が作り上げた“最上もが”を生かして、執筆系のお仕事や、商品のプロデュース、ファンクラブを中心に対面系のイベントなど、幅広く自分にできることを模索していきたいです。

 

おうちでできる仕事を増やせれば、娘との時間もちゃんと取れるけど、「表に出続けてほしい」と言ってくれるファンの方たちもいるので、表に出る仕事と家でできる仕事の両立を上手くやっていきたいですね。

 

PROFILE 最上もがさん

1989年生まれ。東京都出身。2011年アイドルグループ「でんぱ組.inc」に加入し芸能界デビュー。2017年8月にグループ脱退。脱退後は、個人事務所を設立しマルチに活動中。2021年に第一子出産。

 

取材・文/荘司結有 撮影/植田真紗美