アイドルグループ「でんぱ組.inc」のメンバーとして活躍した最上もがさん。シングルマザーとして子育てに励んでいますが、未婚での妊娠を発表した当時は、SNSでの誹謗中傷に心が揺れたといいます。
妊娠発表から1年後に“シングルマザーになった理由”を明かせるまでの気持ちの変化について、自身の半生を綴った初のフォトエッセイ『も学 34年もがいて辿り着いた最上の人生』を上梓した最上さんに伺いました。(全5回中の3回)
「新しい命を授かることになぜ周りから批判が来るのか…」
── 以前からSNSなどで「結婚よりもいつかは子どもが欲しい」とお話しされていました。お子さんが欲しいと思ったのは、どういう気持ちからだったのでしょうか?
最上さん:単純に私のなかの本能のひとつなのかと思うのですが、コロナ禍の影響も大きかったと思います。最初はすべてが未知の状況で、感染したら死ぬかも知れないという驚異を感じていたときに「明日死ぬってなったらどうする?」ってふと考え始めたんですよね。自分が経験したことがないことで、今死んだら何を後悔するか?と考えたら、子どもを産んで育てたかった、という思いがすごくあったんです。
ただ、恋愛はとても不得意で、自分のなかではハードルが高いと感じていました。だから妊娠自体したことは、すごくうれしかったですね。
── 2020年11月にブログで未婚でのご妊娠を発表されました。発表には多くの祝福が寄せられた一方で、「未婚の母」になることへの否定的な声も多く寄せられたそうですね。
最上さん:本当にひどかったですね…。理由は妊娠中にお付き合いしていた相手から別れを告げられたからなのですが、発表した当時はまだその理由を公には書けなくて。まだ認めたくなかったんですよね。まだ気持ちの整理がついていなくて、話し合えば戻ってくるかもという期待もあったんです。
自分のなかでまだ定まっていないことは書けないけれど、仕事上公表をしないとやりづらい案件もあったので先に出したんです。結果的にそれが誹謗中傷の原因になってしまって。今思えば他人からの勝手な決めつけや憶測なんて、私と子どもに何一つ関係ないのに、当時はすごく弱っていたので、生きるのがツラくなってしまうこともありました。
── ただでさえ妊娠中は心が不安定になる時期なのに、さらに大変だったかと思います。
最上さん:妊娠中にホルモンバランスが崩れるのは、経験しないと分からなかったなと思うくらいひどかったですね。私はつわりもしんどかったので、妊娠中は本当にツラかったです。
そもそもなのですが、未婚で子どもを産むことに批判が来ること自体がいまだによく分からないんです。「シングルなんて子どもがかわいそうだ!」と批判する人もいましたが、「なんで子どもの未来が分かるの?」って思うんですよね。産む前から不幸と決まっている子なんていません。
可哀想な子ども、なんて両親がいても存在します。結婚が先だの妊娠が先だのも、赤の他人が良し悪しを決めるものでは一切ないと私は思います。
出産してから優先順位が明確になった
── 2021年5月に第一子となる娘の“こもちゃん”(愛称)を出産を発表されました。その約5か月後には“シングルマザーになった理由”を明らかにしましたが、この間に気持ちの整理がついたのでしょうか?
最上さん:そうですね。妊娠中はある意味、自分ひとりの考えでしかなかったのですが、出産したら娘がいちばん大切ですし、優先順位が明確になりました。もちろん「父親がいたほうがいいのかな」ともすごく考えたのですが、世の中にはさまざまな理由でシングルになる人がたくさんいると思うんですよね。
じゃあ皆さんが不幸なのかと言われたら決してそんなことはないし、不幸にならないために頑張って生きているのだと。目の前に大切な命があったら頑張らざるを得ない状況になりますし、「娘が不幸にならないために私は何をすればいいのだろう」といろんなことを考え始めたら、自分のメンタルも安定してきたんです。
── “こもちゃん”の存在が大きくなったんですね。
最上さん:毎日娘と過ごしているなかで、相手のことを考える時間が「不毛だな」と思うようになりました。人の気持ちって変えられるものではないと思うんです。一度冷めてしまったのにまた好きになってもらうのは難しい。無理させるのは良いことと思えないし、裏切った相手をまた信じるなんてさらに難しい。
私にとって、相手のことを考えるより娘の方が圧倒的に大事になったからこそ、もう理由を言っても平気なくらいのメンタルになったんです。相手には認知もしてもらわず、養育費も受け取っていませんが、そのほうが私もスッキリします。
娘との早寝早起き生活で「無駄なことを考える時間が減った」
── 産後に落ち着いて考える時間ができたのも大きかったのかもしれませんね。
最上さん:出産してからつわりもなくなりましたし、気持ち的にも前向きになる瞬間が増えました。「やっぱりあのときはキツかったんだな」と、冷静に考えられるようになりましたね。出産してから1年くらいはけっこう考えましたけれど、1年過ぎたら「別にどうでもいいな!」と次の感情が芽生えてきて。
私は娘の生活スケジュールを決めるタイプで、早寝早起きさせていると自分もそういう生活になっていくんですよね。夜ふかしをしなくなると無駄なことを考える時間が減るのでよかったなと思います。
写真集やエッセイを出したのも、何もしない時間をなくすためにすごくいいことだったなと。ある意味、日々忙しくしていることでメンタルを保てているのかもしれません。
── 出産から3か月後には育児ブログ「最上家の日常」をはじめました。娘さんとの生活を綴ろうと思ったのはなぜでしょうか?
最上さん:それこそブログしか今やれることがないと思ったんです。産後すぐから「何かしらしないと…」という不安はすごくあって。ただ物理的に仕事をする時間はなくなるし、シッターさんも雇っていなかったので、産後1年間はずっと娘と一緒に過ごしていました。
それでもやれる仕事ってなんだろうと考えたんですよね。ブログ自体は仕事というわけではないのですが、書き続けることによって成長記録にはなるし、何かにつながるかもしれないと思ったんです。
PROFILE 最上もがさん
1989年生まれ。東京都出身。2011年アイドルグループ「でんぱ組.inc」に加入し芸能界デビュー。2017年8月にグループ脱退。脱退後は、個人事務所を設立しマルチに活動中。2021年に第一子出産。
取材・文/荘司結有 撮影/植田真紗美