「チャンレンジした分、出会いがある」と話す竹内智香さん。トップスノーボーダーとして世界を転戦しながら、起業や町おこしや後進育成などいくつもの顔をのぞかせる。何でも挑戦していくキャリアの話、人生を自分でぐいぐい引っ張っていく姿は爽快でした。(全3回中の3回)

 

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ジャンクフードは好きだけど和食中心に自炊生活

── アスリートとして、心身のコンディションを整えるために、ふだんからどんなことに気をつけていますか?

 

竹内さん:いちばん重視しているのは睡眠ですね。練習で疲れた肉体を回復させるには、しっかり眠ることが何より大事。できるだけ8時間の睡眠時間を確保するため、早寝早起きの生活を心がけていますね。

 

食事はジャンクフードも好きなのですが、小麦や乳製品を食べすぎるとアレルギーが出やすい体質なので、和食を中心にした食事を意識して自炊をしています。

 

── 海外で過ごす時間が長いと食事づくりに苦労されるのでは?

 

竹内さん:海外の場合、手に入る食材が限られていて、遠征先のキッチンも簡易的なので、パパッと作れる蕎麦やうどんが多くなりますね。

 

つゆを作り置きして親子丼に使ったり、野菜をたっぷり入れて具だくさんのスープにして食べたり。時間があるときに、カレーや餃子などを大量に作り、小分けにして冷凍保存しています。

競技以外を知らない人生だともったいない

── 選手として世界を飛び回る以外にも、スノーボードブランドの開発をしたり、町おこしにも携わるなど、いくつもの顔をお持ちですよね。現役のトップ選手では、珍しいケースだと思うのですが、新しいことにチャレンジするパワーはどこからくるのでしょうか?

 

竹内さん:やりたいことは、全部チャレンジしたい性分なんです(笑)。誰かをお手本にすることはあまりないのですが、ヨーロッパでの生活が長く、外国人選手に刺激を受けることは多いですね。

 

どちらかというと、日本人の選手は子どものころからスポーツの英才教育を受けてきて、他の世界を知らない人も少なくありません。

 

ヨーロッパでは、若いときから手に職をつけるために、いろいろと勉強を始めるような文化があり、14歳くらいから職業の選択が始まるようです。

 

私の周りにいる選手も、薬剤師や設計士の勉強をしたり、家具職人の修行をしたりと、みんな自分の将来も考えながら人生と向き合い、それと並行してスノーボード競技をするケースが多いんです。そのせいなのか、考え方が大人で、人としてもすごく魅力的。

 

そんな選手たちに刺激を受けて、私も「スポーツ以外の世界を知っておきたい」と、スノーボードのビジネスを始めたり、ドイツ語を勉強するなど、新しいことにチャレンジしてきました。

 

競技とは違う社会を見ることで、自分の人生観や人間力の幅が広がっていくと考えています。

 

── アスリートでありながら複数のキャリアを持つパラレルワーカーですね。

 

竹内さん:私にとってはスノーボード選手であることも、ひとつの仕事としてとらえているんです。

 

スノーボードがライフスタイルの軸であり、そこに選手育成のプロジェクトやスノーボードの開発・販売、町おこしなど、並行して広がっていく感じですね。

 

スノーボード競技のスタート地点から撮影された一枚。過酷さが伝わってくる

「アスリートだからそれ以外のことをしてはいけない」という固定観念は持たないようにしています。

 

もちろんそれによって、「あれもこれも手を出したから結果が出ないんじゃないか」という人もいると思います。

 

たしかに、昔に比べて選手としての活動に集中できない分、勝ちを取りに行くことが難しくなっているのも事実です。

 

でも、これまで6大会のオリンピックで経験も積んできたから、そろそろ違った世界で挑戦してみるのもいいんじゃないかと。

「積極的な失敗」は人生を豊かにすると思う

── 固定概念を打ち破り、挑戦する生き方を貫く姿勢に竹内さんらしさを感じます。以前に取材させていただいたとき、自分の思いや大切な言葉などをノートにびっしりと綴られていて、「こうして強靭なメンタルをつくり上げているんだな」と感銘を受けました。

 

竹内さん:書くことで、自分を俯瞰で見ることができるし、思いも強くなります。

 

人生100年時代、最終的に「すごく豊かでいい人生だったな」と思えるようにするためにも、恐れずに「積極的な失敗」をどんどんしていきたいと思っているんです。 

 

チャレンジすることで、素晴らしい出会いもたくさんあります。ビジネスを通じて多くの経営者の方と知り合って貴重な体験談を聞けたり、イベントなどを通じて分野を超えたアスリート同士のつながりができたり。

 

先日もスポンサーとして支援してもらっている時計ブランド「リシャール・ミル」さんのつながりで、ゴルファーの青木瀬令奈ちゃんや成田美寿々ちゃん、宮里優作さんにお会いしました。

 

30代最後の誕生日をリシャール・ミルファミリーと過ごした際の様子

ほかにも、レーシングドライバーの中野信治さん、松下信治くんなど、トップアスリートの人たちと出会って仲良くなり、以来、交流が続いています。

 

お互いの応援をしたり、子どもみたいにはしゃいだり、誰かが悩んでいるときには相談に乗ることもあります。

 

切磋琢磨し合える刺激的な仲間に出会えたのも、さまざまな挑戦をしているからだと思うんです。

 

 PROFILE 竹内智香さん

1983年生まれ。北海道旭川出身。広島ガス所属。女子スノーボードアルペンの第一人者としてソルトレークから北京まで、6回のオリンピックに連続出場している。 2014年の冬季ソチ五輪では銀メダルを獲得。現在は、選手としての活動にとどまらず、後進の育成やスノーボードの開発、地域貢献など、精力的に活動している。

 

取材・文/西尾英子 画像提供/竹内智香