無責任に前向きな歌詞を書かないでほしい
── 当時をつづったエッセイで印象的だったのが「前向きな歌詞の歌を聞くのがしんどかった」というエピソードでした。
山田さん:「日本の音楽業界に物申す」的な感じで嫌なんですが、無責任に前向きな歌詞を書かないでほしい、という気持ちがすごいあるんですよ。
応援ソングみたいなね。「前を向いて、さあ歩き出そう」「ベッドから飛び出して、カーテンをシャッと開けて、街へ繰り出そう」「信じていれば夢は叶う」とか、そういうポジティブなメッセージが安易に世に氾濫しているな、と。
こっちは引きこもって、学校や社会と断絶していたので。自分には関係ない、パラレルワールドみたいに思ってました。自分がその世界に混じることも、触ることもできない。
歌で応援されても「いやいや、もう俺の人生はどうしようもないから」という。自分の人生は、右にも左にも、前にもうしろにも進まれへんような状態やなと思っていたので。
前向きな歌って、カロリーが高すぎるんですよね。テレビでよくやる激辛料理、デカ盛り料理みたいな。当時の僕にとっては、まさにポジティブソングというのはそういう類いのものでした。
── 聴くと胃もたれしてしまうような。
山田さん:そうですね。当時は、ノーメッセージというか、なにも訴えかけてこない、聴く側の負担にならない歌を求めていました。ゼロカロリー、みたいな。