親に対しては「申し訳ない気持ちのほうが強い」
── 学校に行かなくなった初日、お父さんからドロップキックされたエピソードも拝見しました。当時を振り返って「親にもっとこう対応してほしかった」という思いはありますか?
山田さん:どうですかね…。夏休み中もまったく宿題をやってなくて、2学期の初日から学校に行かなくなるんですが、夏休み中、親はまったく僕の変化に気づいてないわけですよ。
意図的に隠そうとしていたわけじゃないんですが「夏休みの宿題をやってない」「学校でああいうことがあって、今恥ずかしい気持ちになってる」とか、何も伝えなかったので。
いつも通りの「言うことをよく聞く優秀な次男の順三(山田さんの本名)」という感じで親も認識していたと思うし、僕もそう振る舞っていたんです。
ある日、朝起きたら、自分の子どもが思っていたのと全然違う感じに変わったと思うので、親の取り乱しようはすごかったですし、パニックになったやろな、と。それは今でも申し訳なく思っています。
親のなかには、そういうことに対処する引き出しもなかったでしょうし。
── 不登校も今ほど一般的ではない時代だったかもしれません。
山田さん:当時親に対して思っていたのは「そんなケンケン言わんでも、俺、優秀やねんから。今まで自分らの期待、裏切ったことある?」という。まだ天狗入ってますよね。
兄貴が不良やったので「兄貴が近所に振りまいた汚名を、俺がすすいできたんちゃうんかい」という自負がありました。
だから自分でも「もうちょっと静かに見守ってくれたら、宿題もパパッと終わらせて、また学校行くがな」ぐらいの気持ちでいたんですよ。でも、実際、静かに見守られても、学校に行けていたかどうかは分からないので。
だから「親にこうしてほしかった」というより、「申し訳ないことしたな」という気持ちのほうが大きいかもしれないですね。
母から言われた「子育てが下手で申し訳なかったね」
── 大人になってから、当時のことをご両親と話したことはありますか?
山田さん:親子断絶ってほどでもないんですけど、この30年近く、親と直接顔を合わせたのは2回ぐらいなんです。そのうち1回は、長女が生まれたときに「孫の顔でも見たらええがな」と呼び寄せたんですけど。去年、おととしに至っては、電話もお互い1回もしてない。かといって、できへんわけでもないんですが。
ただ、一度、母親と電話で話しているとき「子育てが下手で申し訳なかったね」みたいなことを言われたことはあります。
僕は「いやいや、そんなことないがな。俺は今完璧ではないけど普通に飯食えてるし、家庭を持ってやっとるし。むしろこっちのほうが申し訳なかったな」みたいな話はしたことはありますけどね。
でも実際、自分も親になって、親父やお袋の子育てを冷静に振り返ってみると、下手は下手やったな、とは思いますけどね。
PROFILE 山田ルイ53世さん
1975年生まれ。六甲学院中学に進学後、6年間のひきこもり生活に。大検(当時)を経て愛媛大学に入学後、中退。99年に「髭男爵」を結成。2008年「貴族のお漫才」でブレイク。エッセイやラジオなど多方面で活躍。
取材・文/市岡ひかり 撮影/植田真紗美