「仕事ができなくなります」と役員に宣言
しかし、國近さんは口座の開設にはかなり苦労したそうです。
「1人でも多くの方から募金を募るには、振込できる金融機関を増やしていくしかありません。メガバンクやゆうちょはもちろん、あおちゃんご両親の地元の金融機関、奥様の地元である仙台の七十七銀行など7つの金融機関で口座開設しました」
昨今は詐欺に関する悪行が絶えないため、金融機関による任意団体の口座開設の審査は厳しく、会のメンバーリストや規約を作り、議事録も提出していったそうです。
「実際に銀行に赴いての説明、契約などはほぼ平日の日中です。代表者がいかないと話が進まないので、私はすべてに参加しました。日程も急に決まるので、会社には大変迷惑をかけてしまい...」
同時並行で、募金活動の過去事例から地元の支援を取りつけるのを重視していた「あおちゃんを救う会」は、多くの人と面会するなど、精力的に働きかけを行います。
「パワポで資料を作ったり、動画を作成できる人を探して依頼したり。やっていることは起業の資金集めに近かったかもしれません。
プレゼンも大事で、状況説明や支援の必要性を明確にして伝えていく。とくに動画が与えた影響は大きく、“支援します”とすぐに言ってもらえたのはありがたかったです」
行政を巻き込みつつ、募金の支援者を求め商工会議所や企業、スポーツ団体にもメンバーが合間をぬってお願いに行きました。
会の活動は多岐にわたり、多忙でもあります。ただ、会のメンバーが仕事も家庭もあるなかでどうやって折り合いをつけていったのかは気になるところ。
「私に関していえば、上司に早い段階で救う会の活動のことを伝えました。信頼関係があったし、定期的にアウトプットもしていきました。
実際、仕事への支障は大きく、上司には詫びつつ、所管の役員には“記者会見前後は、これまでのような仕事はこなせなくなります”と正直に伝えました。
テレワーク中だったので朝5時に起きて、救う会の資料作成や情報集取などをして、8時半から仕事につき定時で終わったら、また夜は救う会の仕事をする日々でした」
ただ、日中に銀行を回ったりする日に関しては、通常業務の2〜3割しかできていなかったそうです。
「私の会社はあおちゃんの父親が以前勤めていたことや、日本ではドナー不足で移植が著しく少ない社会課題で、まして命に関することを踏まえて、状況を受け入れてくれました。
ただ、部下にはかなり苦労をかけました。いろんなことが聞けない状況にしてしまったし、埋める努力はしたつもりでも...。これからその分を返していけたらと思っています」