日本の妊産婦支援の問題
── 姜さんは妊産婦支援がご専門ですが、日本の現状で気になる点はどんなところでしょうか。
姜さん:赤ちゃんポストや内密出産の議論も大切ですが、もっと広く妊娠期支援について目を向ける必要があると思っています。
ドイツの場合は、「妊娠葛藤相談所」というものが1600か所ありますし、フランスの場合、周産期医療は無料です。日本では妊娠・出産から子育てでのつまずきを取り除くような、先手を打たなければならないところがまだ多く残されているように感じています。
── ドイツの「妊娠葛藤相談所」では、どんなことをしているのでしょうか。
姜さん:ドイツの場合、中絶をするにはこの相談所に行って相談を受けたという証明書が必要です。中絶に関する相談だけでなく、出産をためらう場合や、出産後の不安についても相談できます。費用も無料で、自治体やカトリック、プロテスタント、フェミニスト系などさまざまありますので、自分が合いそうなところに相談に行くことができます。
ここでの相談は、結論を決めずに行わなければならず、女性を勇気づけ、その理解を呼び起こすものであること、妊娠の葛藤状態に関する相談は、胎児の生命の保護に繋がるようなことなどが、法律に定められています。
日本でもドイツの内密出産が話題になることが多いのですが、これは「妊婦に対する支援の強化及び秘密出産の規制に関する法律」により2014年5月1日から施行されているもので、女性の匿名への希望と、子どもの出自を知る権利の折衷案ともいえます。
日本では、どちらかというと内密出産のもつ「匿名性」へ関心が集まりやすいように思いますが、ここで大事なのは相談所の役割です。性に関する啓発、避妊や家族計画から始まり、社会的・経済的支援や妊娠中絶の実施方法、中絶の身体的・心理的影響、養子縁組など、あらゆる情報を提供します。
フランスの場合は、妊娠が確定したら必ずソーシャルワーカーと面談します。友人の例ですが、出産後の生活にイメージが湧かなかったけれど、夫の仕事形態や就業時間などについても細かく聞かれて、困ったときにサポートしてくれるところの情報も教えてくれたそうです。産後の生活が具体的にイメージしやすくなると思います。
保健所にも⼼理⼠、パートナー間アドバイザー、児童保護専⾨医といった専門職がニーズを把握して⽀えます。パートナーがあまり父親になる準備ができていないと、カップルの面談もあります。さらに、子どもの年齢ごとにサポートがあって、家庭支援専門員を自宅に派遣したり、必要な場合は親子で訪れたりして、心理士に相談することもできます。
── たしかに、妊娠中は出産がゴールではないですが、産後のイメージはあまり持てませんでした。
姜さん:日本では妊娠中の支援について主に体の健康、母子保健分野が力を発揮してきたと思います。それに加えて、女性意思決定や、子どもを産んだ後に自分で育てられるのか、養子縁組に託すのか、仕事は続けられるのか、経済的にはどうかという、トータルの支援が必要です。
現在、産前・産後支援の重要性への認識が広まり、児童福祉法の改正で、困難を抱える「特定妊婦」への生活支援事業も令和6年度から始まりますので、これから少しずつ変わっていくことを期待しています。
日本の自治体も最近は、母子手帳を手渡して終わりではなく、面談を重要視している傾向にあるのですが、面談そのものを怖いと思ってしまう方もいるとの声を聞きます。監視ではなくこれは支援で、「社会が出産、子育てを応援してくれている」というのを伝えられるようにする必要があると思いますね。