性教育にも自己決定の力を

── 海外のサポート体制が手厚い理由には何かあるのですか。

 

姜さん:フランスに住んでいる知人の話によると、フランスは移民も多く、考え方として「助け合ってお互い様」ということがベースにあるそうです。日本の場合は何事も自力でする風潮があるので、SOSを出すこと自体、エネルギーが要って躊躇してしまうという状況もあるのだと思います。

 

一般社団法人 全国妊娠SOSネットワークの調べによると、現在日本では全国に80か所ほどのにんしんSOS相談窓口があって、ドイツをひとつのモデルとして活動をしています。

陽性判定が出た妊娠検査薬のイメージ

親に妊娠したことをどうしても言えない、妊娠を告げたあと相手と連絡が取れない、経済的に困窮していて住む場所もない、周りの人に出産を反対されているなど、相談はさまざまです。相談者の意思を尊重しながら寄り添っていき、幅広く的確な情報を提供することが非常に重要だと思います。

 

予期せぬ妊娠でどうしたらいいかわからず、心配なことが次々と浮かんできて不安な日々を過ごす状況は共通しているように思いますので、まずはひとりで悩まずにこういったところに相談してほしいと思います。

 

── 妊娠に関することを親に相談できない風潮は日本だけなのでしょうか。

 

姜さん:日本では若い世代がひとりで産婦人科に行くのはハードルが高いと思いますが、ドイツでは思春期になると、お母さんが「何かあったらここに行きなさい」と娘を産婦人科に一緒に連れて行くと聞きました。

 

フランスでは2001年から18歳未満の未成年であっても、中絶の際に家族の同意は不要になりました。同伴した成人が書類を書きますが、これは法的な責任を負うものではありません。

 

医療、心理、面接方法について学び、夫婦間の問題を扱うパートナー間アドバイザーという専門職があり、病院や団体で働いていますが、未成年者はこのアドバイザーとの面会を勧められます。

 

── 未成年者であっても自分のことは自分で、というのが伝わってきます。

 

姜さん:日本で求められる性教育は、自己決定する力が育つことだと思います。特に女性が男性から誘わられると断れない、「好きな人なら断らなければ同意」という暗黙の了解や「断ったら関係が壊れる」というような、空気を読んで相手に合わせるという傾向があります。

 

特に女性は妊娠してしまうと学業の継続も難しくなる現状があり、自分を大事にして、はっきりものを言う、男女で対等に関係を築き上げていくという教育が必要だと思います。

 

── お話を伺って日本のさまざまな課題が浮き彫りになってきました。

 

姜さん:あまり知られていないかもしれませんが、慈恵病院は「こうのとりのゆりかご」を始める何年も前から、妊娠に関する相談を受け付けていました。24時間365日体制で、平成29年度は7,444件、平成30年度は6,031件、令和元年度では6,589件の新規の相談が寄せられていて、長年の蓄積や相談のノウハウがあります。

 

もし新たに東京に赤ちゃんポストが設置されるとなると、相談に関する業務はどうなのかという点は非常に重要だと思います。

 

日本は少子化の問題もありますので、妊産婦支援の現状はどうで、どうあるべきなのか。各分野の第一線で活躍されている方が知恵を集めて、赤ちゃんポストだけに特化した議論に終わるのではなく、妊産婦をどうバックアップしていけばいいかを考えるきっかけになってほしいと思います。

 

PROFILE 姜恩和さん

韓国・ソウル出身。東京都立大学大学院社会科学研究科博士課程修了。社会福祉学博士。首都大学東京助教、埼玉県立大学講師・准教授を経て、2020年4月から目白大学人間学部人間福祉学科准教授。子ども家庭福祉、日韓の特別養子縁組制度の比較、予期せぬ妊娠をした女性支援等を研究している。

 

取材・文/内橋 明日香 写真提供/姜恩和