現在、熊本県の慈恵病院が日本で唯一設置している赤ちゃんポスト「こうのとりのゆりかご」。東京都内にも新たな赤ちゃんポスト設置への動きが見られるなか、世界の実情はどうなっているのか──。専門家に伺いました。

世界の赤ちゃんポストの現状

── 東京都内に、新たに赤ちゃんポストを設置する動きがありますが、妊産婦支援を専門に研究している姜さんはこちらをどう思いますか。

 

姜さん:熊本県の慈恵病院の「こうのとりのゆりかご」は私の研究テーマでもありますので先生にお話を伺う機会もあるのですが、関東圏から寄せられる相談が多いとおっしゃっていました。

 

実際に「こうのとりのゆりかご」に預けられた赤ちゃんは、おととしの例では2人ですが、もし今後、東京にできればアクセスの差によって件数が増える可能性はあると思います。

 

── 日本にある赤ちゃんポストは現在、慈恵病院に1か所ですが、世界の例はどうなのでしょうか。

 

姜さん:Baby boxは、アメリカ、中国、韓国、ロシア、スイス、ポーランド、インド、南アフリカなどに設置されていますが、そのなかで1か所だけというのは私が知る限りではないです。財団や団体が自治体と協力して始めるところが多いのですが、ドイツには90か所以上のBaby boxがあります。

韓国のBaby box。オレンジ色のふき出しには「やむを得ず、子どもの障害や未婚等で子どもを育てられない場合は、子どもを遺棄せずに下の扉を開けて預け入れてください」と書かれている

2000年にハンブルクのシュテルニパルクという、子どもや青少年や家族を支援する非政府組織が運営する幼稚園に設置され、その後キリスト教会の人々によって各地の病院に設置されていきます。

 

── 宗教による考え方の違いはありますか。

 

姜さん:Baby boxを設置している国の多くは、おおむねキリスト教がベースにあるのですが、命は神様からいただいた授かりものなので守るべきという考えです。教会が設置したり、教会の支援を得ていたりするところも多いので、土台になりやすいと思います。

 

無宗教と言われる日本でも、命が大切ではないというわけでは決してないのですが、神様からいただいた命は等しく、誰にも権利はないというのはキリスト教の考えに基づいていると思います。

 

── 日本では赤ちゃんポストに対する意見は賛否両論あります。

 

姜さん:世界のBaby boxについて話し合う会議に出席した際に共通していたのは、どの国でも反対意見はあるということでした。それでも、一人ひとりの命が大事ということには変えられないので、生まれた赤ちゃんの遺棄はしてはいけないという認識で一致していました。

陣痛に耐えている母親のイメージ

Baby boxがあるからといって、子どもが遺棄されないのかという検証は難しい問題で、あったとしても防げないという研究もあれば、防げているという意見もあるのが現状です。

 

ただ、日本の場合、赤ちゃんポストは安易な子捨てを助長するという意見が根強くあるかと思いますが、慈恵病院の先生の実感からすると、赤ちゃんポストに子どもを預ける母親たちは、決して安易な考えではなく、むしろ必死であるという印象だそうです。「なんとしてでも子どもの命だけは守りたい」という思いで続けていらっしゃるように思います。