元バドミントン選手としてオリンピックにも出場した潮田玲子さん。現役引退後は生活が一変したそうです。夫で元サッカー選手の増嶋竜也さんとの家事分担や2人のお子さんの子育てのモットーについて伺いました。
パジャマで競争も「子育ては楽しい!」
── 現役引退後、結婚、出産を経て今に至りますが、生活は変わりましたか。
潮田さん:180度変わりました。子どもがいる生活はすごく大変ですし、毎日いろんなことを考えなればならないけれど、すごく楽しいです。
現役のときは常に結果を出さなきゃいけないというのがありましたが、今は家族のために頑張ればいいだけですし、みんなそこまで私に期待していないだろうって(笑)。子育ても仕事もすごく楽しいですよ。
── 子育てで大変さを感じるのはどんなときですか。
潮田さん:娘が本当に私そっくりで、気が強いんです(笑)。だからよくぶつかります。娘が「今すぐこれして!」と言うのに応えられないと、こちらもキーっとなってしまいそうに。でもそんなとき、「たかだか5年しか生きていない、こんな小さな子にむきになって」と思うようにしています。
── いったん、冷静に…!
潮田さん:娘は外ではしっかりしているように見えて、家ではすごく甘えん坊なんです。母から「あなたの小さいころにそっくり」と言われたら「そうか、そうだよな」って。自分に似ていると言われたら、なんだか誰のせいにもできなくなっちゃいました。
それに今から、娘が大きくなったらどうしようと思っています。私の反抗期は結構、主張が激しかったので(笑)。今の娘は、好奇心旺盛で「これもあれもしたい!」という感じです。
息子は、長男らしく石橋を叩いて渡るタイプ。いざ始めてしまえば大丈夫なのですが、慎重で何をするにも「緊張する〜」と言っているのに、やってみると力を発揮することも。
でも、性格はそんなに複雑ではなくて単純ですね。小学生になったのですが、最近、友だちの前では格好つけるんです。学校の前でばったり会ったときに「おーい!」と声をかけたら、「じゃあな」って!
── めちゃくちゃクールですね!
潮田さん:でも家に帰ったら「ママ、ぎゅーして」とか言って。「かわいいな」と思います。ずっとこのまま素直でいてほしいですね。
── お子さんそれぞれに個性がありますね。きょうだいで似ているところはありますか。
潮田さん:2人とも負けず嫌いなのは一緒です。家でもやたらと競いたがるんです。たとえば、パジャマを取ってくるのも何秒でできるか競争するのですが、負けたほうは悔しくて泣いています(笑)。
── かわいいです。
潮田さん:今のところ、体を動かすのは2人とも好きなようですね。子育てでは、悩んで泣くようなときもありますけど、これも修行かなと思っています。子どもはひとりの人間としてきちんと尊重して、対等に接するようにしています。
アスリート夫婦の子育ては
── 旦那さんも元サッカー選手でアスリートですが、夫婦間での子育てのモットーはありますか。
潮田さん:周りの方から、「お子さん、運動神経いいんでしょ?」とか「将来はアスリートかな」と言われることも多いのですが、私たちと子どもは違うし、本人たちの選択だと思っています。
自分たちがそうだったのですが、結局は自分がその競技が好きで、上手くなりたいとか、目標がないと続かないんですよね。そこは親がベクトルを決めずにいきたいと思っています。あとはプレッシャーをかけすぎないようにしようとは夫婦で言っています。
── お子さんが周りから感じるプレッシャーはありそうですよね。
潮田さん:私たちがこんなことしていたんだよと言わなくても、子どもを講習会などに連れて行くこともありますし、東京でオリンピックが開催されたときも、息子は「ママはバドミントン選手だったんだよ」とか、「パパはサッカー選手だったんだよ」というのを周りから聞いてくるんですね。
年齢が上がるにつれ、いろいろと感じてくると思うので、親からはプレッシャーをかけないようにしてあげたいです。自分がそうしてもらってきてよかったので。
7年かけて夫婦の役割分担が
── 潮田さんが仕事のときは、旦那さんがお子さんを見ているんですか。
潮田さん:はい、今もパパがお迎えに行って、これから晩御飯を作って食べさせてくれると思います。
── 夫婦間で家事と子育ての役割分担はどうしていますか。
潮田さん:あえて誰がこれをするという分担はなく、できる人がするという感じです。朝は必ずどちらが迎えに行くかスケジュール確認をしています。夫は帰宅後、乾いた洗濯物を畳んでしまうのをルーティンでしてくれています。
あとは私が食事を作っていたら、お風呂を洗うとか。寝かしつけだけは私がしていますが、子どもが産まれて7年経って、うまく役割分担ができてきた感じです。
── 話し合ったわけではなく自然と、ですか。
潮田さん:そうですね。補い合っていくようにして、こうなりました。ここに至る途中で「役割分担しようよ」と提案したこともあったんですが、「できるほうがやれば良くない?」くらいの反応だったので、それならと。どちらかできるほうがするようになりました。
夫は、そもそも家事力が高いんです。ひとり暮らしをしていたので、自分のことは自分でするというのが基本的にできているんですよね。夫の荷物を用意したことも1度もないですし、夫のクローゼットのほうが綺麗に収納されているので、どうやって整理整頓しているのか教えてもらうことも。
── 以前からそうだったんですか。
潮田さん:料理はまったくできなかったんですけど、引退してからなんでもするようになりました。最近では、私が家に帰るとすでに何品も栄養バランスの良い食事ができているんです。必ず野菜スープがあって、それにメインと副菜。かなり家事スキルが上がっています。
── 理想的ですね!
潮田さん:それに、夫は朝起きてまずキッチンに行って、洗い終わった食洗機にある皿を棚に戻しているんです。その音を聞いて私たちが起きるみたいな(笑)。
── 朝一番に、家事とは!旦那さん、家事が好きなんでしょうね?
潮田さん:それが、本人は好きじゃないって言うんです。片づけないと気持ち悪いからするんですって。休みの日も朝は掃除から始めているんですが、それは綺麗な空間が好きで、部屋がスッキリすると気分がいいんだそうで。私は、それに完全に乗っかってしまって(笑)。本当に助かっています。
── 素敵です。夫婦ともに仕事の際には、お子さんはどうしていますか。
潮田さん:その時々に応じて両方の親にお願いしています。寝かしつけまでお願いすることもあって、ありがたいです。親と子だけだと、どうしても厳しくなってしまうこともあるので、子どもにとっても息抜きではないですが、祖父母は優しいですし、逃げ場があるのも大事かなと思います。
私も小さいころ、祖父母と一緒に住んでいました。母は比較的、家にいたので、基本的に家には誰かがいる環境で寂しい思いをしたことはありませんでした。子どもたちが私の育った環境と違うのは、私も夫も忙しくて、特に小さいころは後ろ髪を引かれるような思いで仕事に行くことも。
皆さんきっと同じ思いだと思うんですが…。でも周りの人たちが支えてくれるので、もう甘えようと思って。最近、息子は「ママ、何時に出るの?」と聞いてきます。私が仕事に行ったら何か観たいものがあるんでしょうね(笑)。それはそれで、いいのかなって。
── お子さんに望むことはありますか。
潮田さん:忍耐力や団結力を学ぶことができるので何かスポーツはしてほしいとは思いますけど、必ずしもトップアスリートにとは思っていません。何か打ち込むことを見つけて、好きなことをしてほしいと思います。
PROFILE 潮田玲子さん
1983年生まれ、福岡県出身。幼い時からバドミントンを始め、全国中学生大会女子シングルス優勝。小椋久美子さんとの“オグシオ”ペアで、女子ダブルス 全日本総合選手権大会を2004年〜5年連続優勝、2007年世界選手権女子ダブルス銅メダル、北京オリンピック5位入賞。2009年〜、池田信太郎さんとの“イケシオ”ペアで全日本社会人大会、全日本総合選手権大会で優勝。2012年、混合ダブルスでロンドンオリンピックに出場、同年9月に現役引退。2021年〜一般社団法人Woman's ways 代表。
取材・文/内橋明日香 写真撮影/北原千恵美 写真提供/潮田玲子