運転中に何げなく使っているクラクション、ウィンカーやハザードランプ。じつは使い方を誤ると道路交通法違反になる可能性も。うっかりではすまされない事例と、正しい使い方を鬼沢健士弁護士に聞きました。 

サンキュークラクションで2万円の罰金?

──「プッ、プッ」。車で走行中、道を譲ってくれた相手にお礼の意味で鳴らす“サンキュークラクション”が道路交通法違反になると聞きました。本当ですか?

 

鬼沢さん:
クラクションの使用については、道路交通法第54条に規定されています。“お礼”による使用は規定に反するため、同法違反となって罰則を科せられる可能性があります。

 

運転中の自家用車のイメージ
運転中の自家用車のイメージ

── 法律ではクラクションの正しい使い方をどのように規定しているのでしょうか?

 

鬼沢さん:
クラクションの正式名称は「警音器」。

 

道路交通法第54条第一項では、警音器を鳴らさなければならないケースとして、「左右の見通しのきかない交差点、道路の曲がり角、又は上り坂の頂上で道路標識等により指定された場所を通行しようとするとき」などとしています。

 

同法第二項では、法令の規定により警音器を鳴らさなければならない場合を除き、警音器を鳴らしてはならない。

 

ただ、危険防止のためにやむを得ないときは、この限りでないとしています。

 

クラクションはいつどこでも鳴らしていいわけでなく、歩行者や自分以外の車に危険を知らせるために使うもの。

 

法律ではその場面を規定しています。「危険を防止するためやむを得ないとき」の例外を除き、規定に反した使用を禁止しているのです。

 

── サンキュークラクションは例外にも当たらない。

 

鬼沢さん:
そうです。「青信号になっても進まない前の車」や「知り合いの車とすれ違いざま」に“プッ、プッ”と、クラクションを鳴らすケースもありますよね。

 

こちらも同じく規定に反し、例外にも当たらないため法律違反となります。

 

── 違反した場合の罰則は?

 

鬼沢さん:
実際にサンキュークラクションで処罰されるケースはほぼありません。

 

あくまで法律上の話として、クラクションを鳴らさなければならない場面で鳴らさなかった場合は5万円以下の罰金、サンキュークラクションなど鳴らしてはいけない場面で鳴らした場合は2万円以下の罰金となります。

ウィンカーはタイミング次第で6000円の反則金に!

── となると、右折・左折などの合図をするウィンカーも何か法的なルールがありそうですね。

 

鬼沢さん:
ウィンカーについては道路交通法施行令第21条で、いつ、どこで出すかなどを規定しています。タイミングを誤ると、「合図制限違反」で罰せられる可能性があります。

 

── そのタイミングとは?

 

鬼沢さん:
交差点で右折・左折する場合は「交差点の手前30メートル」、同一方向に進行しながら進路を右・左に変える場合は「進路変更の3秒前」としています。

 

ただ、この数値はあくまでひとつの目安に過ぎません。走行しながら「30メートル」や「3秒」を図るのは難しいからです。

 

── では、どうすれば…。

 

鬼沢さん:
車の速度や交通状況に応じて、早めに右・左のウィンカーを出すこと。そのために意識すべきなのは、ウィンカーとブレーキ、どちらを先にするかです。

 

ブレーキを踏んで減速してからウィンカーを出すと、ウィンカーのタイミングはどうしても遅れます。ではなくて、ウィンカーはブレーキを踏んで減速するより先に出すようにすれば、必然的に適切なタイミングとなるでしょう。

 

── ウィンカーを出さなかった場合はどうなるのでしょうか?

 

鬼沢さん:
「合図不履行違反」となります。ウィンカーを出すべきところで合図を出さなかった違反行為ですね。

 

前述した合図制限違反は、ウィンカーを出すタイミングが極端に早い、遅いなど不必要なところで合図を出す違反行為を指します。

 

合図不履行違反、合図制限違反ともに違反点数は1点で、反則金は6000円。ただし、サンキュークラクションと同じく、実際に罪に問われるケースはほぼないでしょう。

ハザードランプはどこで使ってもOK!?

── 最後はハザードランプ。法律ではどう扱われているのでしょうか。

 

鬼沢さん:
ハザードランプの正式名称は「非常点滅表示灯」。

 

道路交通法施行令第18条で、「夜間、5.5m以上の道路に停車または駐車しているときは、車両の保安基準に関する規定により設けられる非常点滅表示灯または尾灯をつけなければならない」などとしています。

 

ただハザードランプの場合、先のクラクションやウィンカーと違って「こういうシーンでは使ったらダメ」という明確な規定はありません。

 

── 3つのなかでは、いちばん違反行為になりづらい感じですね。

 

鬼沢さん:
サンキュークラクションは法律違反になる可能性は高いですが、“サンキューハザード”なら法的に問題とならないでしょう。

 

とはいえ、意図的にハザードランプを点滅させて妨害するなど、危険を誘発するような使い方は違法にあたるので要注意です。

 

── 車に乗ることが多くなりそうな年末年始。クラクション、ウィンカー、ハザードランプそれぞれの正しい使い方を頭に入れ、安全運転を心がけたいと思います。

 

PROFILE 鬼沢健士さん

2009年、慶應義塾大学大学院法務研究科修了。10年、司法試験合格。12年、茨城県弁護士会に登録し、取手市に「じょうばん法律事務所」を開設。交通事故、労働問題(被用者側)、インターネット詐欺を中心に取り扱う。

 

取材・文/百瀬康司 図版/アイル企画