「私は世界最大の不幸者」だ

私は世界で最大の不幸者だと思っていましたが

── 価値観が一変した瞬間ですね。

 

安藤さん:
「住むところも食べるものもままならない子どもたちがこんなにキラキラしているのに、自分は…」と。今から考えれば大したことじゃないのに、あんなに落ち込んで「私は世界最大の不幸者」という感じになっていて(笑)。

 

自分自身の心が揉みしだかれるというか、風が吹くというか。もし、あのままザイールに行かなければ、被害者意識を抱えながらずっとトンネルの中に居続けたのかもしれないです。

 

── 外に出たことによって、風が吹いたような。

 

安藤さん:
報道の取材はとても過酷で、楽しいことはほとんどありません。戦争だったり、災害だったり、事故や事件、報道の現場って楽しいことは何ひとつないんです。

 

食うや食わずで取材することもいっぱいあります。寝るところもない、シャワーもないようなところにも行かなくちゃいけません。むしろ、道端で人が死んでるようなところにも行きます。戦争の現場だって行くわけじゃないですか。

 

いつも緊張ばかりしている現場ではもちろんありません。ただ、報道の現場にいると、自分の生きてる様を、客観的に見られる瞬間みたいなものが来るんですよ。あえて「この仕事の大切さ」といえば、その瞬間かもしれませんね。

 

取材を通して、自分の人間としてのありようをふり返らせてくれる瞬間があります。そのことに気づいたとき、私は自分の仕事にものすごく感謝しました。ありがたいとか、嬉しかったとか、そういう表現かなと思います。

 

PROFILE 安藤優子さん

キャスター、ジャーナリスト、社会学者。フィリピンの米軍基地潜入ルポ、アメリカ日系一世の記録などの海外取材レポートを担当。フジテレビ系「直撃LIVEグッディ!」などでMCを務めた。近著は『自民党の女性認識──「イエ中心主義」の政治指向』(明石書店)。

取材・文/間野由利子 撮影/坂脇卓也